・・・るが、子供心にも、うすみっともなく、妙に疳にさわって、おい、お慶、日は短いのだぞ、などと大人びた、いま思っても脊筋の寒くなるような非道の言葉を投げつけて、それで足りずに一度はお慶をよびつけ、私の絵本の観兵式の何百人となくうようよしている兵隊・・・ 太宰治 「黄金風景」
・・・「観兵式、用意っ、集れい。」大監督が叫びました。「観兵式、用意っ、集れい。」各艦隊長が叫びました。 みんなすっかり雪のたんぼにならびました。 烏の大尉は列からはなれて、ぴかぴかする雪の上を、足をすくすく延ばしてまっすぐに走っ・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・ かたりおわるとき午夜の時計ほがらかに鳴りて、はや舞踏の大休みとなり、妃はおおとのごもりたもうべきおりなれば、イイダ姫あわただしく坐をたちて、こなたへさしのばしたる右手の指に、わが唇触るるとき、隅の観兵の間に設けたる夕餉に急ぐまろうど、群・・・ 森鴎外 「文づかい」
出典:青空文庫