・・・勿論、芸術品に対してそんな下劣な観賞者の言葉を気にする必要はないわけですが、この懸念が実際に女の心の中にあるのは、争われない事実であります。 二 仮りにそうしたデリケートな場合を想像するならば、此処に一人の・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・受身に私共の観賞を支配される形ではあるが、一都市が所有する美の蔵の公平な認識者、批評家として、趣味の浮浪人は暗黙の裡に重んぜられる当然の運命をもっている。何故なら、必要、不必要、自分に似合う似合わない、その他多くの購買者が必ず持つ私的条件を・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・ギリシア神話そのものにも、この婦人の立場はよくあらわれていて、たとえばヴィナスは描かれ彫られ、女性の美しさの典型と考えられているが、どの彫刻を見ても、いつもヴィナスは、見られるように観賞物としての女としてあらわれている。織ものをしているヴィ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・種々な人間が、天平、弘仁の造形美術の傑作を研究し、観賞しに奈良を訪ねる。本当の芸術愛好家なら、仏教の信仰をそのものとして奉持しなくても、美から来る霊的欽仰を仏像とその作者とに対して抱かずにはおられない。彼等は感歎し、讚美する。端厳微妙な顔面・・・ 宮本百合子 「宝に食われる」
・・・最も当惑することは、ヨーロッパ人が日本を観賞するそういうマンネリズムを、国内的に逆用される場合である。日本のねうちはそこなのだから、と外からの皮相的な日本を見る目を内へあてはめて、利用される場合である。そういう場合は、無邪気で無責任なそして・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・民主主義文学運動の批評が、すくなくともブルジョア文学における観賞批評でないことはあきらかだし、人民の民主主義的課題という広い基盤に結び合わされながら、文学の独自性において活動しなければならないことも分り切ったことだと思います。世界文学は、プ・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・――都会人の観賞し易い傾向の勝景――憎まれ口を云えば、幾らか新派劇的趣味を帯びた美観だ。小太郎ケ淵附近の楓の新緑を透かし輝いていた日光の澄明さ。 然し、塩原は人を飽きさす点で異常に成功している。どんな一寸した風変りな河原の石にも、箒川に・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
・・・宇野浩二氏の『子の来歴』に一番打たれた人々も子のない人に多いのは、観賞に際してもあまりに曇りがなかったからに違いない。 よく作家が寄ると、最後には、子供を不良少年にし、餓えさせてしまっても、まだ純創作をつづけなければならぬかどうかという・・・ 横光利一 「作家の生活」
出典:青空文庫