・・・キザな言い方であるが、花ひらく時節が来なければ、それは、はっきり解明できないもののようにも思われる。 ことしの正月、十日頃、寒い風の吹いていた日に、「きょうだけは、家にいて下さらない?」 と家の者が私に言った。「なぜだ。」・・・ 太宰治 「父」
・・・これの運動の解明は古典力学だけで間に合う。しかしコリントゲームの方には公算的統計的の要素が入り込む。前者では因果の連鎖が一筋の糸でつづいているが、後者では因果の中間に蓋然の霧がかかっている。それで、前者では練習さえ積めばかなりの程度までは思・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・第一、実地ではこんなに演奏者を八方から色々の距離と角度で眺めることは不可能であるが、そればかりでなく映画のカメラは吾らの眼の案内をして複雑な管弦楽の編成の内容を要領よく解明してくれる。曲の各部をリードしている楽器を時々に抽出してその方に吾々・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・ 笑う前にその理由を考えてから笑うという事は不可能であるとしても、笑ってしまったあとで少なくもその行為の解明がつかないのは申し訳のない事であると思っていた。その困難な説明がどうやらできそうな心持ちがしだした。 それにはこの学者の説と・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・ 過去十数年にわたってわたしたち日本の人民は、正しい社会科学の本もよめなかったし、侵略戦争の本質を解明した本もよめず、人民の文学としての民主主義文学の発展史もよまされませんでした。その思想的空白、ファシズムの暗いほらあなにうちこまれてい・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・しかし、治安維持法があり、現実が現実の内容のままの素直さで語られ、追究され解明されることの不可能だった時代にかかれた「くれない」で、佐多稲子は「思いあがり」という自責的な表現でうらから後家のがんばりに不十分に触れてゆくしかなかった。「思いあ・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・現代文学が主題とするヒューマニズム探求の一環として見た場合、D・H・ローレンスの文学は、こんにちの現実を解明するためにローレンス氏方式ではすでに不十分であることを、明かにして来ているのである。 敗戦後の日本に、肉体派とよばれる一連の文学・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・「各人物の性格なぞも現代的特徴のうちに生かされてはいるし、それが矛盾に於て把握されているが、そうした矛盾した複雑性も、作者の余りにも構えた分析解明の跡が見えすぎ、如実に操られている各性格が息のかよわぬ人形であることがいよいよ哀しく読者に印象・・・ 宮本百合子 「現実と文学」
・・・この社会的不安が肉体にあらわす精神障害を、一つの抑圧されたコムプレックスとしてフロイドは解明しようとした。当時でも、この方法は十分科学的ということはできない、精神現象の生物的性格に局限された扱いかたであった。しかし、フロイドの精神分析は何か・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・どこにより正確な解明を見出す手がかりをさがせるというのだろう。 何か知りたくて一つの本を読む。しかしそれだけではどうも不満で、また別の本をさがす。つづけてまた別のを、と、今日の本の読まれかたの多量さのうちには、何ごとかが判ったから先へ進・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
出典:青空文庫