・・・愚僧は、愚僧は、とまじめに言うので、兄のお友だちも、みんな真似して、愚僧は、愚僧は、と言い合い、一時は大流行いたしました。兄にとっては、ただ冗談だけでそんなことをしていたのでは無く、自身の肉体消滅の日時が、すぐ間近に迫っていることを、ひそか・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・業のお方らしい、やはり矢島さんくらいの四十年配のお方と二人でお見えになり、お酒を飲みながら、お二人で声高く、大谷の女房がこんなところで働いているのは、よろしくないとか、よろしいとか、半分は冗談みたいに言い合い、私は笑いながら、「その奥さ・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・ 私がちょっと階下へ行っているまに、もう馬場と太宰が言い合いをはじめた様子で、お茶道具をしたから持って来て部屋へはいったら、馬場は部屋の隅の机に頬杖ついて居汚く坐り、また太宰という男は馬場と対角線をなして向きあったもう一方の隅の壁に背を・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
出典:青空文庫