・・・結構には違ないが自然の大勢に反した訓戒であるからいつでも駄目に終るという事は昔から今日まで人間がどのくらい贅沢になったか考えて見れば分る話である。かく積極消極両方面の競争が激しくなるのが開化の趨勢だとすれば、吾々は長い時日のうちに種々様々の・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・解答者は、たぶん山田わか女史であったと覚えているが、女史はその青年の都会へのあこがれを丁寧に訓戒し、都会生活の醜悪であることを話し、あなたの使命は東京へ出ることでなくて、村に残り、自然の美を理解して新鮮な空気をたのしみながら、自分の周囲に清・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・たとえば、どこの親でも何心なく云うように、母も何か訓戒めいた場合には、今日まで生んで育ててくれた親の恩ということについて云うのであったが、それは内心の問いかえしなしに娘にはきかれなかった。親たちとしてこちらに向う態度にかさなって、漠然としか・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・そういう子供たちに対して、厳粛に訓戒するために、先生は非常に困惑を感じるそうだ。場所がら「特需」景気がふきあれていて、家庭にも朝鮮景気が侵入しているし、新聞雑誌などでも朝鮮の動乱で日本は儲かっていいという話がおおっぴらにされている。全体のそ・・・ 宮本百合子 「修身」
・・・例えば母親が落ちついて道理に従って子供を訓戒することができる間は、子供は母親の言うことも聴くし、親であるという尊敬も持つことが出来る。けれども子供に道理がある場合、母親がそれを静かに聴くことも出来なくなっていて、いきなり気に入らないことを一・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ 私は、これ等の貧しい内省の裡から決して、一般的な訓戒や警告を抽き出そうとは思いません。多くの若い婦人は、決して、私ほど甘えて人生を見てはいられなかったでしょうし、「本むし」の弊も持たれないでしょう。けれども、最も低い声で囁けることは、・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・部下の武士たちへの訓戒もそこから来ているのであって、武術の鍛錬よりも学問や芸術の方を熱心にすすめているのは、そのゆえであろう。力をもって事をなすは下の人であり、心を働かして事をなすのが上の人であるとの立場は、ここにもうはっきりと現われている・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫