・・・ その本の出版されていることを、私はずっと以前から知っていたし、訳者の井口という人をも少し知っていた。私が最初の小説を発表した時分、和服でまだ帝大の制帽をかぶっていた訳者は、私の仕事について何通かの手紙をくれたし訪問もされた。私はまだご・・・ 宮本百合子 「生活の道より」
・・・それに、この訳にはところどころに訳者插入の研究が自由にさしはさまれていてそのような研究に特別の見識をもたない読者は何か戸惑いを感じるところもなくはない。 このウエルズの文化史大系が、よりまとまりよく整えられて「世界文化史概観」となって発・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・ 訳者富野敬照氏は日本の上代の歴史との連関においても『母権論』の古典的文献的価値を認めて居られる。モルガンの「古代社会」や家族、私有財産及び国家の起源に関するエンゲルスの著作などは、その見解に対する賛否はいずれにせよ、その部門での古典と・・・ 宮本百合子 「先駆的な古典として」
・・・はフランス文学のうつし手として、これまでも多くの意義ある業績を示しておられるが、この「チボー家の人々」は訳者の努力をも記念すべき位置におく種類の作品であると思う。 今の日本には、十数年来なかった程長篇小説が氾濫しているが、そのような今日・・・ 宮本百合子 「次が待たれるおくりもの」
・・・完成の上は、日本の読者も心に親しいトルストイについておびただしい新しい知識を増すであろう。訳者の労も感謝されなければならないと思う。 ビリューコフが、この精密をきわめた結果尨大な本とならざるを得なくなったトルストイの伝記を書きはじめたの・・・ 宮本百合子 「『トルストーイ伝』」
・・・の段階を人類史の大局からはマルクス自身が「未成熟」とし「二度と再び帰らぬ」ことを強調していることを論じている点など、単な思想史には見出されないプラスである。ウィットフォーゲルの「市民社会史」の訳者であるこの著者によって描かれている主篇第三、・・・ 宮本百合子 「新島繁著『社会運動思想史』書評」
・・・ 伊藤整が、七月一日の朝日新聞に「『チャタレー夫人の恋人』の訳者として」書いた一文は、はなはだ暗示にとんでいる。彼は云っている。「文学者や思想家が、既存の社会通念に無批判に服従することでのみ仕事をすべきだとする考えは、人類に進歩があるべ・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・二者の間のまるで違った感じは、単に訳者の相違からのみ起って来て居るのでないことは、よく分って居る。けれども、その訳の仕振りは、いかにも、訳者二人の箇人性をあらわして居る。 ○ジイッと座って居る。うす黒くなった障子を通し、ガラス戸、塀・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
・・・の真実を語ろうとするジャーナリストの仕事を、どう展開してゆくであろうか。日本の読者の心にもジョボロ少佐のその後を案じる現実的なヒューマニティーは目ざめつつあるのである。「アダノの鐘」の訳者杉本喬氏が、ジョボロ少佐をめぐる軍人たちの言葉{・・・ 宮本百合子 「「ヒロシマ」と「アダノの鐘」について」
・・・ 機械的な仕事に没頭している操縦士が、この北極飛行のような滋味ゆたかな報告を書いたということが、先ず、私たちに何かの感想をおこさせるのである。訳者も云っておられるようにヴォドピヤーノフという人が、凡庸の才でないと云うのは確であろう。だが・・・ 宮本百合子 「文学のひろがり」
出典:青空文庫