・・・意志薄弱なる空想家、自己および自己の生活を厳粛なる理性の判断から回避している卑怯者、劣敗者の心を筆にし口にしてわずかに慰めている臆病者、暇ある時に玩具を弄ぶような心をもって詩を書きかつ読むいわゆる愛詩家、および自己の神経組織の不健全なことを・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・『厭世詩家と女性』その他のものを、北村君が発表し始めたのは女学雑誌であったし、ああいう様式を取って、自分を現わそうとしたという事も、つまりこの女学雑誌という舞台があったからだ。殊に雑誌が雑誌だったから、婦人に読ませるということを中心にして、・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・わたしは西洋文学の研究に倦んだ折々、目を支那文学に移し、殊に清初詩家の随筆書牘なぞを読もうとした時、さほどに苦しまずしてその意を解することを得たのは今は既に世になき翰の賚であると言わねばならない。 唖々子が『通鑑綱目』を持出した頃、翰も・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
出典:青空文庫