・・・門に立てる松や竹も田端青年団詰め所とか言う板葺きの小屋の側に寄せかけてあった。僕はこう言う町を見た時、幾分か僕の少年時代に抱いた師走の心もちのよみ返るのを感じた。 僕等は少時待った後、護国寺前行の電車に乗った。電車は割り合いにこまなかっ・・・ 芥川竜之介 「年末の一日」
・・・守衛は何人か交替に門側の詰め所に控えている。そうして武官と文官とを問わず、教官の出入を見る度に、挙手の礼をすることになっている。保吉は敬礼されるのも敬礼に答えるのも好まなかったから、敬礼する暇を与えぬように、詰め所を通る時は特に足を早めるこ・・・ 芥川竜之介 「保吉の手帳から」
・・・秋祭の時、廓に毎年屋台が出て、道太は父親につれられて、詰所の二階で見たことがあったが、お絹の母親は、新調の衣裳なぞ出して父に見せていたことなどもあった。今はもう四十五六にもなって、しばらくやっていた師匠を止めて、ここの世話をやきに来ているの・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・三鷹電車区構内の整備第二詰所としようとしている古電車や、労働組合の事務所又はその附近、それから高相方などにおいて、よりより数回にわたって謀議が行われておりました。」 裁判長「飯田被告と他人と共謀の上とあるが、起訴当時ははっきりしていなか・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・消防詰所傍の広場で、数人の男児、自働車の古タイアを輪廻しのようにころがして来るのに遭う。太い、つるりと重いゴムの大輪を、一生懸命棒ちぎれで叩いてころがす。そのピシャ、ピシャいう音、ゴムの皮膚的な表面の感じ、一種、間抜けて滑稽な動物を追い走ら・・・ 宮本百合子 「湯ヶ島の数日」
・・・弥一右衛門は以前から人に用事のほかの話をしかけられたことは少かったが、五月七日からこっちは、御殿の詰所に出ていてみても、一層寂しい。それに相役が自分の顔を見ぬようにして見るのがわかる。そっと横から見たり、背後から見たりするのがわかる。不快で・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ 現場に落ちていた刀は、二三日前作事の方に勤めていた五瀬某が、詰所に掛けて置いたのを盗まれた品であった。門番を調べてみれば、卯刻過に表小使亀蔵と云うものが、急用のお使だと云って通用門を出たと云うことである。亀蔵は神田久右衛門町代地の仲間・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・ 子供たちは引き返して、門番の詰所へ来た。それと同時に玄関わきから、「なんだ、なんだ」と言って、二三人の詰衆が出て来て、子供たちを取り巻いた。いちはほとんどこうなるのを待ち構えていたように、そこにうずくまって、懐中から書付を出して、まっ・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・しかし伊織は番町に住んでいたので、上役とは詰所で落ち合うのみであった。 石川が大番頭になった年の翌年の春、伊織の叔母婿で、やはり大番を勤めている山中藤右衛門と云うのが、丁度三十歳になる伊織に妻を世話をした。それは山中の妻の親戚に、戸田淡・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・巴里で Emile Henry とかいう奴が探偵の詰所に爆裂弾を投げ込んで、五六人殺した。それから今一つの玉を珈琲店に投げ込んで、二人を殺して、あと二十人ばかりに怪我をさせた。そいつが死刑になる前に、爆裂弾をなんに投げ附けても好いという弁明・・・ 森鴎外 「食堂」
出典:青空文庫