・・・その彼が、たまげた話し方をした。「役員なんぞ、糞喰えだ。いけすかねえ野郎は、かまうこたない、出刃庖丁で頸をちょんぎったるんだ。それで、そしてその切れたあとへ犬の頸を持ってきてすげかえるんだ。今までえらそうにぶつ/\云っていた奴が、ワン/・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・ところが非常な呂音で大変落ちついて、ゆったりした、少しも逼るところのない話し方をする。しかも余に紹介された時、君はただ一二語しか云わなかった。その言葉は今全く忘れているが、普通にありふれた空虚な辞令でなかったのはたしかである。むしろ双方で無・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
・・・の時の話し方で聴取者の腹の底までしみ渡りました。渡辺氏は、宗教が、たとえば宗教裁判や戦争挑発によって過去に人類的罪悪を犯したのは――反科学的であったのは、宗教が宗教の外へ出て行動した場合だけであったと言いました。が、渡辺氏は、そういう理論づ・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・私には父のその話し方がいかにも気に入った。父も母も愛らしく思いやられた。「それでお父様はどうなすって?」「どうするって……困ったようなものだが、つくづく無理もないと思ったね。何しろいきなり見ず知らずの家へ連て来られて、これが亭主だと・・・ 宮本百合子 「わが父」
・・・其だからきっと話し方は下手でしょう。僕のお母様もお前は余り上手ではありませんねと仰言いました。」 斯う云いながら、少年も聞き手も、一寸の間嬉しそうに笑いました。「けれども。皆さん、どうぞ聞いて下さい、僕は下手でも話さずには居られない・・・ 宮本百合子 「私の見た米国の少年」
出典:青空文庫