・・・パリの騒然とした街の様子が彼独特の詳細な筆致でかかれているあとに、市役所のアーク燈に照らされた大階段にぎっしりとつめかけて国民兵の募集に応じようとしている市民の群が描写されている。これらの顔色のわるい人々、折から雨に外套もなくぬれながらなお・・・ 宮本百合子 「折たく柴」
・・・ それらの経験と行くさきの新興産業とはどんな関係にあるかというような詳細に亙って、作家と目的地との関係などは詮衡されなかった。「生産への異国趣味を排撃せよ!」というスローガンが、自己批判として現れたのは、極めて自然な結果であった。 ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・まだ、だがプランの詳細は出来ていない。毎日もうそのことに、心がつかまえられています。 林町の例の二階の机に向って、計画中です。 国男の体は大分回復して来ました。でもまだ疲労熱を出す。十一月の初旬には退院しますでしょう。スエ子の盲腸は・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・失われた時計については光井叔父上がたのんだ人からいろいろ手続中の模様ですが、役所ではその品物について一々詳細のことを私に訊くよう申すらしいのですが、どうして知って居りましょう まして、帽子などまで! ねえ。困ったことです。この次こまかいこと・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・その現実の詳細を、社会主義リアリズムは、自身の課題としていると思う。「伸子」につづく「二つの庭」から「道標」の道行きを考えたとき、わたしは、作家として、とても目ざましい、というような方法をとれなかった。「二つの庭」にあるすべては、それら・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・ 話の間だがちょッとここで忍藻の性質や身の上がやや詳細に述べられなくてはならない。実に忍藻はこの老女の実子で、父親は秩父民部とて前回武蔵野を旅行していた旅人の中の年を取った方だ。そして旅人の若い方はすなわち世良田三郎で、母親の話でも大抵・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・及び感性能力の貧弱な人々にまでも明確に了解させねばならぬそれほども、私は私自身の独断的表現を圧伏させ、文学入門的詳細な説明をしていることは、月評としては赦されない。だが、私は自分の指標とした感覚なるものについて今一度感覚入門的な独断論を課題・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・老夫婦の受けた苦難はまことに惨憺たるものであったが、物語は特にその苦難を詳細に描いている。それは玉王の前に連れ出されたときの親子再会の喜びをできるだけ強烈ならしめるためであろう。しかも作者は、この再会の喜びをも、実に注意深く、徐々に展開して・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・あるいは外景、室内、容貌、表情などに関する詳細な注意や記憶を持っている。これらも確かに一種の才能である。誰でもが彼らのような観察と記憶とを持つことはできない。けれども多くを詳らかに見ることは直ちに「自然」を深く見ることにはならない。彼らの眼・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
・・・もとよりその詳細な測定や記述の仕事は、今後に残されているでもあろうが、しかしわれわれのような素人が、推古仏の源流を求めていろいろと考えてみるというような場合には、これで十分である。寸法が精確に測定されていながら、写像がぼんやりしているよりも・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫