・・・そして日曜の朝の礼拝にも、金曜日の夜の祈祷会にも必ず出席して、日曜の夜の説教まで聞きに行くのでした。 他の下宿に移ってまもなくの事でありました、木村が、今夜、説教を聞きに行かないかと言います。それもたって勧めるではなく、彼の癖として少し・・・ 国木田独歩 「あの時分」
・・・彼の法戦を始めた。彼の伝道には当初からたたかいの意識があった。昼は小町の街頭に立って、往来の大衆に向かって法華経を説いた。彼の説教の態度が予言者的なゼスチュアを伴ったものであったことはたやすく想像できる。彼は「権威ある者の如く」に語り、既成・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ 街頭狗肉を売るところの知的商人、いつわりの説教師たちを輩出せしめる現代ジャーナリズムに毒されたる読書青年が、かような敬虔な期待を持つことができないのは同情に値する。しかしながらジャーナリズムはまた需要にこたえるものでもある。読書子の書・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ 二十五日、朝、基督教会堂に行きて説教をきく。仏教もこの教も人の口より聞けば有難からずと思いぬ。 二十六日、いかがなしけん頭痛烈しくしていかんともしがたし。 二十七日、同じく頭痛す。 二十八日、少許の金と福島までの馬車券とを・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・私は教会は、きらいでありますが、でも、この人のお説教は、度々聞きにまいります。先日、その牧師さんが、苺の苗をどっさり持って来てくれて、私の家の狭い庭に、ご自身でさっさと植えてしまいました。その後で、私は、この牧師さんに、れいの女房の遺書を読・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・私はあの人に説教させ、群集からこっそり賽銭を巻き上げ、また、村の物持ちから供物を取り立て、宿舎の世話から日常衣食の購求まで、煩をいとわず、してあげていたのに、あの人はもとより弟子の馬鹿どもまで、私に一言のお礼も言わない。お礼を言わぬどころか・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
・・・ わけのわからぬ問答に問答をかさねて、そのうちに、久保田氏は、精神とかジャンルとか現象とかのこむずかしい言葉を言い出し、若い作家の読書力減退についてのお説教がはじまり、これは、まさしく久保田万太郎なのかもしれないなどと思ったら酔いも一時・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・高橋君は、すぐ編輯長に呼ばれて、三時間、直立不動の姿勢でもって、説教きかされ、お説教中、五たび、六たび、編輯長をその場で殺そうと決意したそうでございます。とうとう仕舞いには、卒倒、おびただしき鼻血。私たち、なんにも申し合わせなかったのに、そ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 労働至上主義などというかび臭い説教はこの映画のどこからも自分には感じられない。この映画を見ていると工場の中で器械として働く人間は刑務所に働く囚徒と全く同じもののように思われる。学校生徒も同様である。この映画に現われる社交界の人々もやは・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・何かの説教でもあるかと思ってよく見ると、それは Sermon でなくて Salmon day であった。鮭の鑵詰を食う日で、すなわちその鑵詰の広告のようなものと判断された。そうしてそれが当日行われたいわゆる「節約デー」に因んだものだという事・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
出典:青空文庫