・・・これも例えば長母音を勝手に二音に数えたり、重母音を自己流に分けたり合したりすると短歌と同じ口調に読めるものが多数にある。この場合は第二句の方が短いからなおさら都合がよいのである。例えば。。 などは十二、五、七、七と切って・・・ 寺田寅彦 「短歌の詩形」
・・・栗本鋤雲が、門巷蕭条夜色悲 〔門巷は蕭条として夜色悲しく声在月前枝 の声は月前の枝に在り誰憐孤帳寒檠下 誰か憐まん孤帳の寒檠の下に白髪遺臣読楚辞 白髪の遺臣の楚辞を読めるを〕といった絶句の如きは今なお牢記し・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・「五年生の人は読本のページの課をひらいて声をたてないで読めるだけ読んでごらんなさい。わからない字は雑記帳へ拾っておくのです。」五年生もみんな言われたとおりしはじめました。「一郎さんは読本のページをしらべてやはり知らない字を書き抜いて・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・ 複雑な生活経験によって豊富にされた大人が、なお十分の魅力を感じつつ読めるような作品が一つでも多く書かれなければならないということについては誰しも異存のあろうはずはないのである。しかし、私としては、この提唱に関して大変興味を刺戟され・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・ちょいちょい区切って、ところどころ読んで行く分には読める。退屈ではない。然し、農村の集団化とは結びついてはいない。「貧農組合」は農村における集団農場化のために少なからぬ害を与えるが、ためになるところはない。この小説には成っていない集団農・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ これまでの手紙で忘れていたこと=去年の九月から、母が生前書いたものを、主として日記ですが、すっかり栄さんに読めるように書き写して貰い、一周忌までに本にして記念にする手順で居ります。実によく書いて居る。父と結婚――私もまだ生れなかった頃・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・この字は不思議と読めるただ一つの字なのだから。子供の時あなたも「面白いお話しを聞かせてよ」とおっしゃったでしょう。そういう人はいつもきまっていたでしょう。子供だって、きらいなやつに面白いお話しをせがむような鈍感な間違いはしないわ。 寿江・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ひろい板がこいの上は生産に従う労働者と農民の鮮やかなパノラマ式画でおおわれ、赤いイルミネーションが、こっち側の歩道を歩く群集からも読める。 レーニニズムノ旗高ク 五ヵ年計画ヲ四年デ! たなびく赤旗が強烈な夜の逆電光をうけとるとい・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ 彼等は、書いてあることが下らなかろうが、支那人向きであろうが一向頓着せず、横文字の読めると云う嬉しさ珍しさに我を忘れて、この小冊子も読み耽っただろう。丁度、私共が十二三の頃、面白くもなければ、本当の意味もわからない西鶴や方丈記を、其等・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・君それが読めるか。」「読めないことはありますまい。この本の事は聞いていただけで、まだ見たことはなかったのです。しかし私が Paedagogik を研究した時、どうしても心理学から這入らなくては駄目だと思って、少し心理学の本を覗いて見たこ・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫