・・・男を観察し、女中の留守には自分の洗ったお茶碗を傍で拭き、得意の庖丁磨きをすることを恒例とする良人、労農派の総帥山川均氏をはじめ、親類の男の誰彼が特殊な事情でそれぞれ女のする家のことをもよくするということで、すべての男性というものを気よくその・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・ 何かの婦人雑誌に彼が最近かいたものの中で、文学を日夜想念する作家として誰彼のことを云っていたが、文学の想念ということは、窮局には、たゆまず自分を破いて行こうとする情熱、それを表現し文学化してゆく文学上の諸要件での一致点の発見のことでは・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
・・・ けれ共十年立った今では死んだ者の多くがそうである通りに彼の名も彼の相貌も大方は忘られて、極く稀に兄弟や親族の誰彼の胸に「昔の思い出」として淡い記憶の裡に蘇返るばかりである。 其故只一年位ほか一緒に居なかった私而かもまだ小学に入った・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・経営主任の責任ある位置にいるひとはやっと三十そこそこで、その辺にいる誰彼と一向違わない鳶色のルバーシカを着、元気に仕事をやっている。鞄を小脇に抱えた連中が盛に出入りする、青い技師の制帽をかぶったのも来る。主任は日本の女がモスクワから遠い炭坑・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・ 禰宜様宮田は、近所の誰彼が、「まあ、へえ、よし坊は十円け? よっぱら割がええなあ、俺らげんなあお前んげと同じい年でも、いまちいっとやせえわ。 まちっと相場あ見てっと得したんだになあ」などと云っているのをきいた。 もう十・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・それは、一人の次官、あれこれの社長、社会党の誰彼が法廷に出て不正行為をあばかれ、責任を問われようとも、それは、東京裁判における東條英機その他の被告が、きょうの社会にもっている関係に等しいという事実である。 日本の人民生活を、今日の惨苦に・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・紐育時代のこと、結婚した友人の誰彼のこと。話したりカードを遊んだりして居る最中に、遠くの方で、百八の鐘が鳴り始めた。近所に寺が少ないと見え、あまり処々には聴えない。静に一つ一つ、間を置いては突き鳴らす音が、微に、ストーブの燃える音、笑い声を・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・ 編輯員の誰彼に愛嬌を振りまきつつ、彼はジェルテルスキーの机の横へ椅子を引張って来た。「大分暖いですね、今日は。奥さんお達者ですか? 一寸通りかかったもんで、どうしていられるかと思ってね」 松崎はちらちらジェルテルスキーがタイプ・・・ 宮本百合子 「街」
・・・けれども、この頃誰彼なしに「生めよ、ふやせよ」と云われているような風潮に対して、子供を持つことの出来ない女性たちも何かの意味で社会の役に立ちたいと希う心持が語られているので、目にとまります。 これまでは、このルポルタージュの投稿の中に、・・・ 宮本百合子 「ルポルタージュの読後感」
出典:青空文庫