・・・「これは雷水解と云う卦でな、諸事思うようにはならぬとあります。――」 お蓮は怯ず怯ず三枚の銭から、老人の顔へ視線を移した。「まずその御親戚とかの若い方にも、二度と御遇いにはなれそうもないな。」 玄象道人はこう云いながら、また・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・――先へ立つ世話方の、あとに続く一樹、と並んで、私の上りかかる処を、あがり口で世話方が片膝をついて、留まって、「ほんの仮舞台、諸事不行届きでありまして。」 挨拶するのに、段を覗込んだ。その頭と、下から出かかった頭が二つ……妙に並んだ形が・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・「――いっそ木の枝に『この木一万三千円也』と書いた札をぶら下げて置くと良いだろう」 と、皮肉ってやると、お前はさすがにいやな顔をした。「諸事倹約」「寄附一切御断り」などと門口に貼るよりも未だましだが、たとえば旅行すると、赤帽に二十円、宿・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・神田本同書には、「此志一上人はもとより邪天道法成就の人なる上、近頃鎌倉にて諸人奇特の思をなし、帰依浅からざる上、畠山入道諸事深く信仰頼入りて、関東にても不思議ども現じける人なり」とある。清氏はこの志一を頼んで、だぎにてんに足利義詮を祈殺そう・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・天保年間の諸事御倹約の御触に就いて、その一人物が大いに、こぼしているところなのであります。私は、永井荷風という作家を、決して無条件に崇拝しているわけではありません。きのう、その小説集を読んでいながらも、幾度か不満を感じました。私みたいな、田・・・ 太宰治 「三月三十日」
・・・家主からは、さらに二十日待て、と手紙が来て、私のごちゃごちゃの忿懣が、たちまち手近のポチに結びついて、こいつあるがために、このように諸事円滑にすすまないのだ、と何もかも悪いことは皆、ポチのせいみたいに考えられ、奇妙にポチを呪咀し、ある夜、私・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・あなた方は博士と云うと諸事万端人間いっさい天地宇宙の事を皆知っているように思うかも知れないが全くその反対で、実は不具の不具の最も不具な発達を遂げたものが博士になるのです。それだから私は博士を断りました。しかしあなた方は――手を叩いたって駄目・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・ この時、私が、実際生活上に起る諸事の軽重を弁え、兎に角自己の立てるべき処を失わずに日々を処理して行く確かさを持っていなかったことは、状態を一層混乱させました。 大小にかかわらずことごとくが私にとっては極抽象的な「問題」の形をとって・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
出典:青空文庫