・・・ 問 君――あるいは心霊諸君は死後もなお名声を欲するや? 答 少なくとも予は欲せざるあたわず。しかれども予の邂逅したる日本の一詩人のごときは死後の名声を軽蔑しいたり。 問 君はその詩人の姓名を知れりや? 答 予は不幸にも忘れ・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・懺悔したフランシスは諸君の前に立つ。諸君はフランシスの裸形を憐まるるか。しからば諸君が眼を注いで見ねばならぬものが彼所にある。眼あるものは更に眼をあげて見よ」 クララはいつの間にか男の裸体と相対している事も忘れて、フランシスを見やってい・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・――諸君のまじめな研究は外国語の知識に乏しい私の羨やみかつ敬服するところではあるが、諸君はその研究から利益とともにある禍いを受けているようなことはないか。かりにもし、ドイツ人は飲料水の代りに麦酒を飲むそうだから我々もそうしようというようなこ・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・ 諸君が随処、淡路島通う千鳥の恋の辻占というのを聞かるる時、七兵衛の船は石碑のある処へ懸った。 いかなる人がこういう時、この声を聞くのであるか? ここに適例がある、富岡門前町のかのお縫が、世話をしたというから、菊枝のことについて記す・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・文学の忠僕たる小生は切に諸君の健闘を祈る。 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・今あとで坂本さんが出て土佐言葉の標本を諸君に示すかも知れませぬ。ずいぶん面白い言葉であります。仮名で書くのですから、土佐言葉がソックリそのままで出てくる。それで彼女は長い手紙を書きます。実に読むのに骨が折れる。しかしながら私はいつでもそれを・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・ もし諸君の内に、こういう場合にぶつかった人があれば、余はこう注意したい。 まず筆をおいて、単に文章を書こうとしたのか、それとも本当に書きたい思いや心持があって書こうとしたのか、そのいずれかを静かに考え返してみるがいい。そしてもし心・・・ 小川未明 「文章を作る人々の根本用意」
・・・「……終りに臨んで、私は中央公論の読者諸君に申しあげたい。諸君は、小説家やジャーナリストの筆先に迷って徒らに帝都の美に憧れてはならない。われわれの国の固有の伝統と文明とは、東京よりも却って諸君の郷土に於て発見される。東京にあるものは、根・・・ 織田作之助 「東京文壇に与う」
・・・いま諸君の目にはそうした表象が浮かんでいるにちがいない。日光浴を書いたついでに私はもう一つの表象「日光浴をしながら太陽を憎んでいる男」を書いてゆこう。 私の滞在はこの冬で二た冬目であった。私は好んでこんな山間にやって来ているわけではなか・・・ 梶井基次郎 「冬の蠅」
・・・「ナニ最早大概吐き尽したんですよ、貴様は我々俗物党と違がって真物なんだから、幸貴様のを聞きましょう、ね諸君!」 と上村は逃げかけた。「いけないいけない、先ず君の説を終え給え!」「是非承わりたいものです」と岡本はウイスキーを一・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
出典:青空文庫