・・・ほども遠い、……奥沢の九品仏へ、廓の講中がおまいりをしたのが、あの辺の露店の、ぼろ市で、着たのはくたびれた浴衣だが、白地の手拭を吉原かぶりで、色の浅黒い、すっきり鼻の隆いのが、朱羅宇の長煙草で、片靨に煙草を吹かしながら田舎の媽々と、引解もの・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ 一ツ狭い間を措いた、障子の裡には、燈があかあかとして、二三人居残った講中らしい影が映したが、御本尊の前にはこの雇和尚ただ一人。もう腰衣ばかり袈裟もはずして、早やお扉を閉める処。この、しょびたれた参詣人が、びしょびしょと賽銭箱の前へ立っ・・・ 泉鏡花 「菎蒻本」
・・・「その居士が、いや、もし……と、莞爾々々と声を掛けて、……あれは珍らしい、その訳じゃ、茅野と申して、ここから宇佐美の方へ三里も山奥の谷間の村が竹の名所でありましてな、そこの講中が大自慢で、毎年々々、南無大師遍照金剛でかつぎ出して寄進しま・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・――ほんに、もうお十夜だ――気むずかしい治兵衛の媼も、やかましい芸妓屋の親方たちも、ここ一日二日は講中で出入りがやがやしておるで、その隙に密と逢いに行ったでしょ。」「お安くないのだな。」「何、いとしゅうて泣いてるだか、しつこくて泣か・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・人形使 されば、この土地の人たちはじめ、諸国から入込んだ講中がな、媼、媽々、爺、孫、真黒で、とんとはや護摩の煙が渦を巻いているような騒ぎだ。――この、時々ばらばらと来る梅雨模様の雨にもめげねえ群集だでね。相当の稼ぎはあっただが、もうやが・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・往来の両側には名物うんどん、牛肉、馬肉の旗、それから善光寺詣の講中のビラなどが若葉の頃の風に嬲られていた。ふと、その汽車の時間表と、ビイルや酒の広告と、食物をつくる煙などのゴチャゴチャした中に、高瀬は学士の笑顔を見つけた。 学士は「ウン・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
出典:青空文庫