・・・ リストが音楽商の家の階段を気軽にかけ上がって、ピアノの譜面台の上に置き捨てられたショパンの作曲に眼をつけて、やがて次第に引入れられて弾き初める、そこへいったん失望して帰りかけたショパンがそっと這入って来て、リストと背中合せに同じ曲を弾・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・古風な唐草模様のピアノの譜面台らしいものに長方形の鏡をはめこんだもので、今だにそれを箪笥の上に立てかけて使っている。この鏡と手鏡だけが、私の朝夕の顔、泣いた顔、うれしそうにしている時の顔を映すものなのだが、考えてみれば姿見だの鏡台だのという・・・ 宮本百合子 「この初冬」
・・・室を一つちゃんと持って、ドアをあけて入って見ると、譜面台がいくつも壁ぎわにたっている。太鼓、笛、トロンボーン、ギター、バラライカ、などが片づけてある。音楽サークルは五日に一遍とか日をきめて音楽学校からの指導者をまねき、なかなか熱心に勉強しま・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の音楽サークルの話」
・・・ ゲーテが五つ六つの時、父親の鉱物標本を譜面台の上に積み重ねて祭壇をこしらえ、レンズで集めた太陽の光で香をたいて、その前に燻じ、万有の神に捧げたという話は、世界文学史の上に「黄金のように輝いた少年」ゲーテにふさわしい逸話として或る意味で・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫