・・・宮本の母さえも、警視庁で命ぜられたとおり自分が息子の顕治に面会した場所や健康状態については、沈黙を守っているという有様であった。 さかのぼって考えれば一九三一年以来、はじめて、小説にうちはまってゆけるゆとりが作者の心に生じた。また一九三・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・縞背広は向い合う場所にかけ、「警視庁から来た者だ、君を調べる!」「――そうですか」 それきり何も云わず、ポケットから巻煙草を出して唇の先へ銜え、マッチをすり、火をつけると、一吹きフーと長く煙をはいた。その手がひどく震えて居る。煙・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・一月三十一日の朝日新聞は三輪田元道氏、山脇女学校教師竹田菊子氏、警視庁保安課長国監氏等の意見をのせている。等しくレビューの男役をする女優、例えば水ノ江タキ子その他に若い女学生が夢中になって、その真似をして髪を切るとか、何か贈り物をしたいため・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・悪に誘われ――それが悪とさえわきまえず悪におちいる少年少女の、垢のついた小さい十本の指を、拇指から小指へとくっきり指紋にとって、それを何万枚警視庁にためて分類したとしても、わたしたちの日本の苦しみと悲しみはへりはしない。 警視庁の役人は・・・ 宮本百合子 「指紋」
・・・ 非合法であった時代に、警視庁が党生活にたいする逆宣伝として新聞に書きたてさせた、その言葉を、今日の知識人とか批評家とかいう人が、鵜呑みにして平気でそれをくりかえすのに驚ろかされる。 なぜなら、その人達はそういう事実を自分で一つも経・・・ 宮本百合子 「社会生活の純潔性」
・・・ 逸見重雄氏は、野呂を売って警視庁に捕えさせたスパイの調査に努力した当時の党中央委員の一人であった。特高が中央委員であった大泉兼蔵その他どっさりのスパイを、組織の全機構に亙って入りこませ、様々の破廉恥的な摘発を行わせ、共産党を民衆の前に・・・ 宮本百合子 「信義について」
・・・ それはこの一月二十一日ごろのことであったと思うが、二十四日の新聞には、農林省で、米の強制供出案をもっていることと、警視庁が「板橋事件」重視しているということと、一層強くなっている食糧人民管理の潮先とが、並んで一枚の紙面を埋めているので・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・ もうその為電車はきかないので歩いてかえり始めると、警視庁の裏、青山の方、神田の方、もう一つ遠い方で火が見える。 その夜は空が火事のあかりで、昼間のようでゴーゴーと云う物凄い焔の音がした。 着物をきかえるどころではなく夜は外でた・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・高等主任に会い、折から居合わせた警視庁の高等係とも掛け合ったが、彼等は何と卑劣でしょう。自分等が一旦法律に従って許可した余興だけさえ、もう許可はとり消したのだといってやらせない。段々夜の部がはじまる午後六時近くなると、会場築地小劇場のまわり・・・ 宮本百合子 「日本プロレタリア文化連盟『働く婦人』を守れ!」
・・・保護観察所によって保護観察に附せられた。警視庁の特高課長であった毛利基が主事をしていた。毛利基は宮本の関係した党内スパイ摘発事件のとき、スパイを潜入させその活動を指導するための主役の一人であった。はじめて保護観察所によばれたとき、この毛・・・ 宮本百合子 「年譜」
出典:青空文庫