・・・(或曰、くまは韓語、或曰、くまは暈ただ狼という文字は悪きかたにのみ用いらるるならいにて、豺狼、虎狼、狼声、狼毒、狼狠、狼顧、中山狼、狼、狼貪、狼竄、狼藉、狼戻、狼狽、狼疾、狼煙など、めでたきは一つもなき唐山のためし、いとおかし。いわゆる御狗・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・レヴューの名題には肉体とか絢爛とか誘惑とかいう文字が羅列され、演劇には姦淫、豺狼、貪乱といったような文字が選び出されている。 浅草の興行街には久しく剣劇といいチャンバラといわれた闘争の劇の流行していたことは人の記憶している所である。博徒・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・「嗚呼いやなことだ」「豺狼」等と銘し、室生犀星氏が悪党の世界へ想念と趣向の遠足を試みている小説等とともに、痛い歯の根を押して見るような痛痒さの病的な味を、読者に迎えられたのであった。 石坂洋次郎氏の「麦死なず」という小説が、左翼運動への・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫