・・・ 思うに、それは、D・H・ローレンスという炭礦夫の息子が、たまたま異常な感受性と表現の才能にめぐまれていて、性の解放を主張し、その解放者である男性を、青年貴族だの、上流資産家の二男などの中に見出さず、自分の生れ育った階級に近いところから・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・技術家はそのようにして、今日二十年来の資産の大半を失ったのである。 こういう有様で、その四十万円の修繕をやるにつけても、ドック会社は現金欠乏であった。そこで会社は材料を持つだけにして、労働者の方は、夫々の組から入れさせることにした。組が・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・そして当時の既成作家の大部分が、円本の氾濫によって所謂金もちになり、多少の資産をもつようになり、溌剌たる創作力を次第に生暖い日本生活の懐の中で鈍らせ始めた。折から、好況後の経済恐慌によって世間は鋭く現実に目を醒されたと同時に、文学の領域に力・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・そこには、今日の女の愚かさ低さの上に、その涙の上に資産をつくっている大衆作家の自信ある暮しぶりを眺める時のような、ある心の痛み、憤りがあるのである。 こういう半面に、「婦人の立場から」等には、素朴な表現や視野の不十分な明確さを示しながら・・・ 宮本百合子 「女性の教養と新聞」
・・・もし自由学園なら、あすこは生徒の親の資産調べと校風にしつけやすい特色の少い性格の子供をとることとで一部には有名であるから、作家の子供は敬遠したのかもしれない。 けれども、それにはかかわりなく、やはり出された質問の性質は今日の或る普遍性に・・・ 宮本百合子 「新入生」
・・・ とうに別格官幣大社になるはずではあるけれ共、資産のとぼしいばかりに今も尚、幾十年かたここに建てられたと同じ位に居なければならないのであった。 それほど差し迫った生活の味を知らない私共は、真の貧と云う事は知らない。 精神的に慰安・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫