・・・歩く道なら大学赤門前から三丁目がある。電車のルートの工合で、動き廻る道筋を制御される我々は、東京の他の沢山の隅々を、何か特別なきっかけのない限り外国に在る街同然知らないで過ごす通り、牛込、神楽坂などに縁遠かった。 けれども、思い出して見・・・ 宮本百合子 「茶色っぽい町」
・・・ 小一時間も掛って漸う赤門の傍まで来た時、車をよける拍子か何かに、引ったくる様にして持って来たリンゴを風呂敷の包み目から二つ程、ドロンコの中にころがして仕舞った。 どんな工合にしてそれを持って行ったか覚えないが、とにかくどうにか斯う・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・「赤門」も本郷名物の一つであり、大学正門の銀杏並木も、学内の現実を、初夏はその若葉で、秋にはその黄葉で美化して見せる名物である。 本郷にはもう一つわたしにとって忘れることのできない名所がある。それは本郷区役所と並んでそびえていた本富・・・ 宮本百合子 「本郷の名物」
出典:青空文庫