・・・勿論台本がああなっていたのだろうが、前半の写実風を一貫させるなら、深草少将の身代りに、口惜しさのあまり「そなたと契ろうよ」とかなり正面から哀切にゆき、身代りがあわてふためき覆面をかなぐりすて、「やつがれは六十路を越したる爺にて候」と・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・外債募集のためアメリカへやって来た何とかいう世界地図にものっていないような弱小国の麗わしい姫が、ニューヨークへついて間もなくオタフク風にとりつかれてしまったので、その身代りを瓜二つな容姿をもった一人の貧乏で悧※な失業女優がつとめて、終りには・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・主人が戦犯で資格がないので、細君が身代り候補に立っている。そういう人が大分ある。また良人の地盤というものに支えられて立っている人々も少くない。旧政権の時代、買収でかためて来た「地盤」をそのまま利用して、今日演説会へ来るものには種を袋へ入れて・・・ 宮本百合子 「婦人の一票」
・・・ 長太郎の願書には、自分も姉や弟妹といっしょに、父の身代わりになって死にたいと、前の願書と同じ手跡で書いてあった。 取調役は「まつ」と呼びかけた。しかしまつは呼ばれたのに気がつかなかった。いちが「お呼びになったのだよ」と言った時、ま・・・ 森鴎外 「最後の一句」
出典:青空文庫