・・・芸術の権威は、彼等によって、すでに軟化される。そして、表現されたものは芸術本来の姿ではなくして、畢竟自己の趣味化された技巧の芸術となって、第一義の精神からは、変形された玩賞的芸術に他ならないのだ。 詩人や、芸術家が、真に、真理の愛求者で・・・ 小川未明 「正に芸術の試煉期」
・・・きり白い、肩つきの按排は西洋婦人のように肉附が佳くってしかもなだらかで、眼は少し眠むいような風の、パチリとはしないが物思に沈んでるという気味があるこの眼に愛嬌を含めて凝然と睇視られるなら大概の鉄腸漢も軟化しますなア。ところで僕は容易にやられ・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・と軟化した。 小さい女が、はいって来た。君は芸者ですか? と私は、まじめに問いただしたいような気持にもなったが、この女のひとの悪口も言うまい。呼んだ奴が、ばかなのだ。「料理をたべませんか。僕は宿で、たべて来たばかりなのです。むだです・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・貧乏のうちは硬骨なのが金持ちになって急に軟化するようにともかくも軟化しそうである。そのかわりそれらの草の実がだんだん発育進化して米や麦よりもいいか、あるいは少なくも同等な穀物になりはしないか。 もし培養のしかたによって、頑強な抵抗力は保・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・それにお前さんのからだは大地の底に居たときから慢性りょくでい病にかかって大分軟化してますからね、どうも恢復の見込がありません。」病人はキシキシと泣く。「お医者さん。私の病気は何でしょう。いつごろ私は死にましょう。」「さよう、病人・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
出典:青空文庫