・・・小十郎は半分辞退するけれども結局台所のとこへ引っぱられてってまた叮寧な挨拶をしている。 間もなく塩引の鮭の刺身やいかの切り込みなどと酒が一本黒い小さな膳にのって来る。 小十郎はちゃんとかしこまってそこへ腰掛けていかの切り込みを手の甲・・・ 宮沢賢治 「なめとこ山の熊」
・・・ 日本女は辞退した。婦人党員はわきにしゃがんで日本女の膝の上へ持ってたハギトリ帖と鉛筆をのせた。 ――では、どうぞ名と職業を書いて下さい。 彼女は、日本女が耳で演説をききながら下手な字で「日本。作家、ユリ・チュウジォ」と書くのを・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・ リオンスの作家観をもってすれば、芸術院へ入ることを正宗白鳥氏がことわったことも、藤村氏が辞退したことも、荷風氏が氏の流儀ではねつけたのも、悉くわけのわからないことになるのである。リオンスによれば「一般に作家というものは、だいいち人間が・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・ 番頭に蹴飛ばされそうになる雛どもを、ソーッと彼方へやりながら、禰宜様は幾度も幾度も辞退した。 が、番頭はきかない。 とうとう喋りまかされた禰宜様宮田は、海老屋まで出かけることになった。 店の繁盛なことや、暮しのいいことなど・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・いい加減の訳をよまされた上、景品として世界的現実の劇画まで与えられることは、私たちとして辞退したく思うのである。 体位の向上がひろく云われている以上、精神の体位を向上させることも、現代の任務の一つな筈である。 そんなことを考えていた・・・ 宮本百合子 「翻訳の価値」
・・・それは女は自分のいやな時は遠慮したり辞退したり笑いにまぎらしたりしてしまってよういに思ってる事がわからない、化物のようだからと人が云った。だけどこの頃は女が馬鹿になって男が前よりも利口になったんだか何だかしれないけれども、女って云うものが段・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・又七郎はそれを辞退した。竹は平日もご用に立つ。戦争でもあると、竹束がたくさんいる。それを私に拝領しては気が済まぬというのである。そこで藪山は永代御預けということになった。 畑十太夫は追放せられた。竹内数馬の兄八兵衛は私に討手に加わりなが・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫