・・・ジュリアン・バンダがフランス本国から近著した雑誌で、ヴァレリイ、ジイド等の大家を完膚なきまでに否定している一方、ジャン・ポール・サルトルがエグジスタンシアリスムを提唱し、最近巴里で機関誌「現代」を発行し、巻頭に実存主義文学論を発表している。・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・これがわたくしの近著『つゆのあとさき』の出来た所以である。 谷崎君はこの拙著を評せられるに当って、わたくしが何のために、また何の感興があって小説をかくかという事を仔細に観察しまた解剖せられた。谷崎君の眼光は作者自身の心づかない処まで鋭く・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
あるがままの姿は決して心理でもなければ諷刺でもない 伊藤整氏の近著『街と村』という小説集は、おなじ街や村と云っても、作者にとってはただの街や村の姿ではなく、それぞれに幽鬼の街、幽鬼の村である。これまでの自身の中・・・ 宮本百合子 「観念性と抒情性」
・・・ 貴司悦子さんの近著『村の月夜』を贈られ、それを通読して、私は、母である女のひとが自分の文学的な才能を、子供のために活かすことの自然さに打たれるところがあった。「ローラア」「にわとり」「乗合自動車」などは、直接幼い子供の感覚の内に入って・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
ジイドが彼の近著『ソヴェト旅行記』に対して受けた非難に抗して書いている「ローランその他への反撃」という文章は悪意を底にひそめた感情の鋭さや、その感情を彼によって使い古されている切札である知力や統計の力やによって強固にしよう・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・ただ、君の近著の『芸術観』について一、二の感想を語ろうとするのである。この論文集において岸田君は、優れたる画家であるとともにまた優れたる「思索家」であることを示した。その思索は君の画と同じく深い洞察に充たされ、君の画と同じく不思議な生を捕え・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫