・・・近頃の東京近郊の面目を一新させた因子のうちで最も有効なものと云えば、コンクリートの鋪装道路であろうと思われる。道路に土が顔を出している処には近代都市は存在しないということになるらしい。 荒川放水路の水量を調節する近代科学的閘門の上を通っ・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・小区域の驟雨が某市街を通過するか、その近郊のみを過ぐるかはその市民にとりては無差別にはあらず。しかれどもかくのごとき小規模の現象の予報をなし得るためには、少なくも測候所の数を現在の数百倍数千倍に増加せざるべからず。 現在の天気予報はかく・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・休日に近郊などへ散歩に出かけられるのでも、やはり同様な見地からであったように自分には思われる。 下手な論文を書いて見ていただくと、実に綿密に英語の訂正はもちろん、内容の枝葉の点に至るまで徹底的に修正されるのであった。一度鉛筆で直したのを・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・ 地理学教室ではペンクや助手のベーアマンが引率して近郊の地質地理見学に出掛けた。ペンクの足の早いのとベーアマンの口の早いのとに悩まされたが、ずいぶん色々とためにはなった。 学生の有志の見学団で毎週のようにいろいろの見学参加募集をする・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・堤上の桜花もまた水害の後は時勢の変遷するに従い、近郊の開拓せらるるにつれて次第に枯死し、大正の初に至っては三囲堤のあたりには纔に二、三の病樹を留むるばかりとなった。浜村蔵六が植桜之碑には堤上桜樹の生命は大抵人間と同じであるが故に絶えずこれが・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・ 元八幡宮のことは『江戸名所図会』、『葛西志』、及び風俗画報『東京近郊名所図会』等の諸書に審である。甲戌十二月記 永井荷風 「元八まん」
・・・従って、文学における自然の範囲は、街頭、公園、近郊に多くとどまっており、あるいは通俗小説の場面としては落すことのできない近代スポーツの背景として北国の雪景、またはドライヴの描写としての京浜国道がとり入れられ、いずれにせよ、大部分享楽的消費的・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
出典:青空文庫