近頃パリに居る知人から、アレキサンダー・モスコフスキー著『アインシュタイン』という書物を送ってくれた。「停車場などで売っている俗書だが、退屈しのぎに……」と断ってよこしてくれたのである。 欧米における昨今のアインシュタ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・「僕にも近頃流行るまがい物の名前はわからない。贋物には大正とか改良とかいう形容詞をつけて置けばいいんだろう。」と唖々子は常に杯を放なさない。「ああいう人たちのはく下駄は大抵籐表の駒下駄か知ら。後がへって郡部の赤土が附着いていないとい・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・ 近頃教育者には文学はいらぬというものもあるが、自分の今までのお話は全く教育に関係がないという事が出来ぬ。現時の教育において小学校中等学校はローマン主義で大学などに至っては、ナチュラル主義のものとなる。この二者は密接なる関係を有して、二・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・私は今日を以て私の何十年の公生涯を終ったのである。私は近頃ラムの『エッセー・オブ・エリヤ』を取り出して、「老朽者」という一文を読んだ。そしてそれが如何にもよく私の今日の心持を言い表しおるものだと痛く同感した。回顧すれば、私の生涯は極めて簡単・・・ 西田幾多郎 「或教授の退職の辞」
・・・そしてこれが、ニイチェを日本の理解からさまたげてる最も根本の原因である。近頃日本の文壇では「日常性の哲学」といふことが言はれて居るが、元来文学者の生活には、常に「哲学する日常性」が必要なのである。即ちゲーテも言つてるやうに、詩人に必要なもの・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・さるを今の作者の無智文盲とて古人の出放題に誤られ、痔持の療治をするように矢鱈無性に勧懲々々というは何事ぞと、近頃二三の学者先生切歯をしてもどかしがられたるは御尤千万とおぼゆ。主人の美術定義を拡充して之を小説に及ぼせばとて同じ事なり。抑々小説・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・時に近頃隣の方が大分騒がしいが何でも華族か何かがやって来たようだ。華族といや大そうなようだが引導一つ渡されりャ華族様も平民様もありゃアしない。妻子珍宝及王位、臨命終時不随者というので御釈迦様はすました者だけれど、なかなかそうは覚悟しても居な・・・ 正岡子規 「墓」
・・・「しかしながら人間どもは不届だ。近頃はわしの祭にも供物一つ持って来ん、おのれ、今度わしの領分に最初に足を入れたものはきっと泥の底に引き擦り込んでやろう。」土神はまたきりきり歯噛みしました。 樺の木は折角なだめようと思って云ったことが・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・また、たくでは近頃景気がいいんですのよ、という風体だった細君連も、ちがった姿となっている。 そして、これらの変化にはやはり贅沢禁止のいろいろな運動が役にたっているにちがいないのだろう。街のプラタナスの今年の落葉は、「簡素のなかの美しさ」・・・ 宮本百合子 「新しい美をつくる心」
・・・こう云う風に本当を二つに見ることは、カントが元祖で、近頃プラグマチスムなんぞで、余程卑俗にして繰り返しているのも同じ事だ。これだけの事は一寸云って置かなくては、話が出来ないのだがね。」「宜しい。詞はどうでも好い。その位な事は僕にも分かっ・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫