・・・ありがもりもりと巣から出るように、地底から、気味悪い迫力をもって、社会の表面へ出ようとするのを感ぜずにはいられません。 もう一つ、これと連想するものに、児童の問題があります。 長い間、児童等の生活は、その責任と義務を、家庭と学校・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・ことに、東京で美術学校生活を送ったことのある一種のインテリであり、芸術家であるという男が、独得の大阪弁で喋っているというところに面白さがあるが、しかし、この作品はまだ大阪弁の魅力が迫力を持っているとはいえず、むしろ「楽世家等」などの余り人に・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・何か圧倒的に迫って来る逞しい迫力が感じられるのだ。ぐいぐい迫って来る。襲われているといった感じだ。焼けなかった幸福な京都にはない感じだ。既にして京都は再び大阪の妾になってしまったのかも知れない。 東京の闇市場は商人の掛声だけは威勢はいい・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・ほどの迫力はないが、吉田栄三の芸を想わせる渋い筆致と、自然主義特有の「あるがまま」の人生観照が秋声ごのみの人生を何の誇張もなく「縮図」している見事さは、市井事もの作家の武田麟太郎氏が私淑したのも無理はないと思われるくらいで、僕もまたこのよう・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・な憎悪感に就いては、原作者の芸術的手腕に感服させるよりは、直接に現実の生ぐさい迫力を感じさせるように出来ています。このような趣向が、果して芸術の正道であるか邪道であるか、それについてはおのずから種々の論議の発生すべきところでありますが、いま・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・そこへ近づくメッサーの姿が窓ガラスに映ってだんだん大きくなるのが印象的な迫力をもっている。「烏賊」ホテルの酒場のガラス窓越しに、話す男女の口の動きだけを見せるところは、「パリの屋根の下」の一場面を思いだす。 メッサーの手下が婚礼式場用の・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・娯楽として見るにはあまりにリアルな自然そのものの迫力が強すぎるような気がする。神経の弱いものには軽い脳貧血を起こさせるほどである。こんな土の見えない岩ばかりの地面をひと月もつづけて見ていたらだれでも少し気が変になりはしないかという気がした。・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・もない作家、謂わば、命を一つめぐってそれをすてるか守るかしようとする熾烈な目的をも、立場の必然からはっきりとは掴んでいない作者があちこちしての報告が、見るにせわしくて現象的で、内から迫って人の心をうつ迫力を文章にもっていないのも、当然である・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・ 基本的な社会関係までを自分の問題としてとりあげる迫力がなく、しかも常に朗らかでばかりあり得ない気分の上でだけ新らしさを追求する結果、すでに映画制作者が巧みにも把えている古いものの新らしげな扮飾が、恋愛の技巧の上で横行する。互にまともな・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・うたい上げられた調子はあるが沈潜して読者の心をうち、ともに憤激せしめる迫力は欠けている。 皮相的な、浮きあがった表現の著しい例をわれわれは、この小説のクライマックスともいうべき「共同視察」の場面に発見する。ドヤドヤと視察者が入ってくる。・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
出典:青空文庫