・・・だから、右の諸作家の筆になるものを見ても、日清戦争がどういう風に戦われたか、如何なる戦争であったか、その戦場の迫真力のある描写の一つも、また戦時に於ける国内大衆の生活がどうであったかをも知ることが出来ない。多くの作者は、その戯作者気質と、幇・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・女房の行く跡を、飢餓の狼のようについて歩いて、女房が走ると自分も走り、女房が立ちどまると、自分も踞み、女房の姿態と顔色と、心の動きを、見つめ切りに見つめていたので、従ってその描写も、どきりとするほどの迫真の力を持つことが出来たのでありますが・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・けれども、此の一行の言葉には、迫真性があります。さて、私も、のがれて都を出ました。懐中には五十円。 私は、どうしてこうなんでしょう。不安と苦痛の窮極まで追いつめられると、ふいと、ふざけた言葉が出るのです。臨終の人の枕もと等で、突然、卑猥・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・つねに存在の最上級に居り、永遠に醒めている、互に誤解することさえない СССРが何故Dの作品を出版しないか その理由は、彼の芸術におけるこの危険にとんだ二重性による おどろくべき迫真力と虚構との。 それこそドストイェフスキー・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・作者のレーニン的世界観の統一、政治的鍛練によって、自らそなわって来た独特の簡明さ、迫真力、革命的気宇の大さが、作品の深い光沢となってかがやき出そうとしている。主題の把握においても、敢然と多数者獲得の課題に応え得ている。 同志小林は「組織・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・成程文学作品が我々の生活に影響する力は非常に大きいが、それは或る一つの文学作品が現実への迫真力の深さによって再び現実の生活を突き動かした場合であって、われわれが日々夜々生き、戦っている現実の複雑した社会生活という土台より切りはなされた文学が・・・ 宮本百合子 「見落されている急所」
・・・人間性への具体的な迫真の試みだけが、リアリズムを自然主義の匂いの中から歩み出させ、明日の文学へ新しい展開を与える可能を見出してゆくのだと思われる。〔一九四〇年九月〕 宮本百合子 「リアルな方法とは」
出典:青空文庫