・・・山猫はとうとうつかまって退治された。耳の中にこう云う玉入っていた。」なんてやっていました。そのうちキッコは算術も作文もいちばん図画もうまいので先生は何べんもキッコさんはほんとうにこのごろ勉強のために出来るようになったと云ったのでした。二・・・ 宮沢賢治 「みじかい木ぺん」
・・・子供の遊ぶ部屋の前には大きい半分埋まった石、その石をかくすように穂を出した薄、よく鉄砲虫退治に泥をこねたような薬をつけられていた沢山の楓、幾本もの椿、また山桜、青桐が王のように聳えている。畑にだって台所の傍にだって木のないところなど一つもな・・・ 宮本百合子 「雨と子供」
・・・ じゃ清正が退治したってのは本当は豚かい?」「これ! 何です、豚かいなんて」「ハハハハ。構わん構わん……清正が退治したのは本物の虎さ。だが虎は朝鮮でもずっと北へ行かないじゃいまいよ」「ふーん」 暫くまた二人の話をきいていたが・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・財閥は決して退治されていない。生計の担当者である彼女たちの一票は少くともそれに反対する人民の意思表示となるべきであると思う。 安達ヶ原 群馬の或るところに恐ろしい人肉事件が起った。また再び詳しく話し返すに堪えな・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・すなわち、結核に対する人間の新しい態度――より科学的により社会的に、人間を不幸にするこの細菌は退治られなければならないという態度をめやすとしていいと思う。気分や、雰囲気から描かれているばかりでなく。―― 「白い激流」 伊東千代子・・・ 宮本百合子 「『健康会議』創作選評」
・・・兎に角この一山を退治ることは当分御免を蒙りたいと思って、用箪笥の上へ移したのである。 書いたら長くなったが、これは一秒時間の事である。 隣の間では、本能的掃除の音が歇んで、唐紙が開いた。膳が出た。 木村は根芋の這入っている味噌汁・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・ そういう工合に、自然主義退治の火が偶然社会主義退治の風であおられると同時に、自然主義の側で禁止せられる出板物の範囲が次第に広がって来て、もう小説ばかりではなくなった。脚本も禁止せられる。抒情詩も禁止せられる。論文も禁止せられる。外国も・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・それからどうかすると先生を退治しようとするねえ。Authoritaeten-Stuermerei というのだね。あれは仏を呵し祖を罵るのだね。」 寧国寺さんは羊羹を食べて茶を喫みながら、相変わらず微笑している。 五・・・ 森鴎外 「独身」
・・・スバルや三田文学がそろそろ退治られそうな模様である。しかしそれはこの新聞には限らない。生存競争が生物学上の自然の現象なら、これも自然の現象であろう。 八、創作家としての伎倆 少し読んだばかりである。しかし立派な伎倆だと認・・・ 森鴎外 「夏目漱石論」
・・・過激思想ももちろんその中に含まれているであろうが、過激思想を退治しようとしている為政者の言行といえどもまたその中に含まれていないのではない。利のために働かず、任務自身のための任務をつくして来た父から見ると、現在の政治家のように利のために動い・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫