・・・ 久しく途切れたからこれを書き今日はこの位でもう出します。この頃は時候がわるいらしいから呉々お大事に。こんな空を見て臥ているのは残念ですね。 九月七日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 駒込林町より〕 九月七日夜。今夜八日ぶりでお・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 声が車輪の音の間に途切れて分らない。私は、六つばかりの赤いジャケツを着た女の子をつれた男が、本気な好奇心を動かされた表情でいろいろと満鉄のことを訊きたがっている様子に、注意をひかれた。水道局か何かに勤め、目下のところ月給はとっているが・・・ 宮本百合子 「東京へ近づく一時間」
・・・行進して来る組合の人々は互にぎっちり腕を組み合って、組合旗を守り、元気よいというよりも気のたった大声をはりあげメーデーの歌をうたいつつ、ゆっくり進むかと思うと、腕を組み合ったまま急にかけだして、途切れそうになる行列をつないで、進んでゆく。前・・・ 宮本百合子 「メーデーに歌う」
・・・その言葉が思わず途切れ途切れに私の唇からほとばしった。どうも御苦労様でした、そういう感動が私の体じゅうを震わすのであったが、物々しい儀式の空気に制せられてそれは表現されなかった。 父は建築家としての活動にまめであった。且つ、建築家という・・・ 宮本百合子 「わが父」
・・・そこで話もたちまち途切れた。途切れたか、途切れなかッたか、風の音に呑まれて、わからないが、まずは確かに途切れたらしい。この間の応答のありさまについてまたつらつら考えれば年を取ッた方はなかなか経験に誇る体があッて、若いのはすこし謹み深いように・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫