・・・夜半の寝覚に、あるいは現に、遠吠の犬の声もフト途絶ゆる時、都大路の空行くごとき、遥かなる女の、ものとも知らず叫ぶ声を聞く事あるように思うはいかに。 またこの物語を読みて感ずる処は、事の奇と、ものの妖なるのみにあらず。その土地の光景、風俗・・・ 泉鏡花 「遠野の奇聞」
・・・五官を杜絶すると同時に人間は無くなり、従って世界は無くなるであろう。しかし、この、近代科学から見放された人間の感覚器を子細に研究しているものの目から見ると、これらの器官の機構は、あらゆる科学の粋を集めたいかなる器械と比べても到底比較にならな・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・こういうような訳で道楽の活力はいかなる道徳学者も杜絶する訳にいかない。現にその発現は世の中にどんな形になって、どんなに現れているかと云うことは、この競争劇甚の世に道楽なんどとてんでその存在の権利を承認しないほど家業に励精な人でも少し注意され・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・左翼に対する弾圧激しく『働く婦人』『プロレタリア文化』『プロレタリア文学』等の発行は杜絶えがちになった。岩田義道が警察の拷問によって虐殺された。 執筆小説「鋪道」を『婦人之友』に連載中、検挙によって中絶。一九三三年・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・全市の交通、通信機関が途絶してしまった以上、内部の正確な報知を、容易に得られない訳だ。〔四字伏字〕行方不明〔四字伏字〕、〔六字伏字〕と云う諸項が、特に疑いを生じさせた。丁度政界が動揺していた最中なので、余程誇大されているのではあるまいかとは・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
出典:青空文庫