・・・ その日の中に、果しておなじような事が起ったんです。――それは受取った荷物……荷は籠で、茸です。初茸です。そのために事が起ったんです。 通り雨ですから、すぐに、赫と、まぶしいほどに日が照ります。甘い涙の飴を嘗めた勢で、あれから秋葉ヶ・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・ 通り雨は一通り霽ったが、土は濡れて、冷くて、翡翠の影が駒下駄を辷ってまた映る……片褄端折に、乾物屋の軒を伝って、紅端緒の草履ではないが、ついと楽屋口へ行く状に、肩細く市場へ入ったのが、やがて、片手にビイルの壜、と見ると片手に持った・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・ そして林は虔十の居た時の通り雨が降ってはすき徹る冷たい雫をみじかい草にポタリポタリと落しお日さまが輝いては新らしい奇麗な空気をさわやかにはき出すのでした。 宮沢賢治 「虔十公園林」
・・・ 木の葉から葉へと落ちる雫の音があわただしい通り雨の後を不器用にまとめて行く。 宮本百合子 「通り雨」
出典:青空文庫