・・・しかし低い木だとうつ向きに枝を離れた花は空中で回転する間がないのでそのままにうつ向きに落ちつくのが通例である。この空中反転作用は花冠の特有な形態による空気の抵抗のはたらき方、花の重心の位置、花の慣性能率等によって決定されることはもちろんであ・・・ 寺田寅彦 「思い出草」
・・・この二層の境界面の高さは、場合により時刻によっていろいろになるわけであるが、通例海面から数百メートル程度のものである。航空者特に自由気球にでも乗る人はこの事実を忘れてはならない。 海陸風の原因が以上のとおりであるから、この風は昼間日照が・・・ 寺田寅彦 「海陸風と夕なぎ」
・・・一方、無批判的な群小は九十九プロセントの偉大に撃たれて一プロの誤りをも一緒に呑み込んでしまうのが通例である。権威の大なる危害はここにあるのである。このような実例は科学史上枚挙に暇ないほどである。ニュートンが光の微粒子説を主張したという事がど・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・ また一方で歴史と称するものは通例王者、勝利者、支配者の歴史であって、人間の歴史としてははなはだ物足りないものである。少なくも人間の歴史はただその中に偶然的に織り込まれているに過ぎない。歴史を読むのみではわれわれは祖先民族の生活も心理も・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 山の傾斜面でもその傾斜角を大きく見過ぎるのが通例である。 これらと少し種類はちがうが、紙上に水平に一直線を描いて、その真中から上に垂直に同長の直線を立てると、その垂直線の方が長く見える。顔の長い人が鳥打帽を冠ると余計に顔が長く見え・・・ 寺田寅彦 「観点と距離」
・・・を三度くらい繰り返すが通例であった。多くの場合に、飛び出してからまもなく繰り返し鳴いてそれきりあとは鳴かないらしく見える。時には三声のうちの終わりの一つまた二つを「テッペンカケタ」で止めて最後の「カ」を略することがあり、それからまた単に「カ・・・ 寺田寅彦 「疑問と空想」
・・・細かい花は通例沢山に簇出しているような気がする。これも不思議である。そうして多くの草の全体重と花だけの総体重との比率にはおおよそ最高最低限度がありそうな気がしてこれも何かわれわれのまだ知らない科学的な方則で規定されているのではないかという気・・・ 寺田寅彦 「高原」
・・・の場合に、責任者に対するとがめ立て、それに対する責任者の一応の弁解、ないしは引責というだけでその問題が完全に落着したような気がして、いちばんたいせつな物的調査による後難の軽減という眼目が忘れられるのが通例のようである。これではまるで責任とい・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・から、もし我々の若い時分の気持で書くとすれば、天下の英雄君と我とのみとまで豪がらないにせよ、習俗的に高雅な観念を会釈なく文字の上に羅列して快よい一種の刺戟を自己の倫理性が受けるように詩趣を発揮するのが通例であるが、今例に引こうとする手紙など・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・なぜかならば我等の芸術を装幀するものは、通例我等自身ではないからです。我等の為し得るところは、精々のところ他人の製作した者の中から、あの額縁この表紙を選定し指定するに過ぎない。しかもその選定や指定すら、多くの困難なる事情の下に到底満足には行・・・ 萩原朔太郎 「装幀の意義」
出典:青空文庫