・・・しかしそういう一般的な問題は別として、ここで例にとったニュートンの方則の場合について物理学の範囲内だけで考えてみても、結局ニュートン自身が彼自身の方則を理解していなかったというパラドックスに逢着する。なんとなれば彼の方則がいかなるものかを了・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・そうして偶然に逢着したのが津田君であった。 洋画家並びに図案家としての津田君は既に世間に知られている。しかし自分が日本画家あるいは南画家としての津田君に接したのは比較的に新しい事である。そしてだんだんその作品に親しんで行くうちに、同君の・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・それからあのいつもの漆喰細工の大玄関をはいってそこにフロックコートに襟章でも付けた文部省の人々の顔に逢着するとまた一種の官庁気分といったようなものも呼び出される。尤もこんな事は美術とは何の関係もない事ではあるが、それでも感受性の鋭い型の観覧・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
毎朝起きて顔を洗いに湯殿の洗面所へ行く、そうしてこの平凡な日々行事の第一箇条を遂行している間に私はいろいろの物理学の問題に逢着する。そうしていつも同じようにそれに対する興味は引かれながら、いつまでもそのままの疑問となって残・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・に世界各地の楽器の比較に移って行く、その途中で、遠くかけ離れた異種民族の楽器が、その楽器としての本質においてのみならず、またその名称においても、一脈の連鎖によって互いにつながっているらしく見える現象に逢着して、奇異の感に打たれる事もしばしば・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
物理学は基礎科学の一つであるからその応用の広いのは怪しむに足らぬ。生命とか精神とかいうものを除いたいわゆる物質を取扱って何事かしようという時にはすぐに物理学的の問題に逢着する。吾人が日常坐臥の間に行っている事でも細かに観察・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・これらの場合における能知者と所知者の関係を立ち入って考えて行けば、歴史は科学として成立し得るかというような大問題や、写生の意義如何という広い問題に逢着する。そのような大問題はここに論ずる限りでない。ただこの種の作物の価値を定むるものとしての・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・殆ど思議すべからざる事実に逢着し得たのである。しかしこの伝統もまた三月九日の夜を名残りとして今は全く湮滅してしまったのであろう。 ○ この夜吉原の深夜に見聞した事の中には、今なお忘れ得ぬものが少くなかった。・・・ 永井荷風 「草紅葉」
・・・ 自分はここにわれらの祖先が数限りなく創造した東洋固有の芸術に逢着する。松、竹、梅、桜、蓮、牡丹の如き植物と、鶴、亀、鳩、獅子、犬、象、竜の如き動物と、渦巻く雲、逆巻く波の如き自然の現象とは、いずれも一種不思議な意匠によって勇ましくも写・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・吾人がこの問題に逢着したとき――吾人は必ずこの問題に逢着するに相違ない。意識及その連続を事実と認める裏にはすでにこの問題が含まれております。そうしてこの問題の裏面には選択と云う事が含まれております。ある程度の自由がない以上は、また幾分か選択・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
出典:青空文庫