・・・ 保吉 それから一週間ばかりたった後、妙子はとうとう苦しさに堪え兼ね、自殺をしようと決心するのです。が、ちょうど妊娠しているために、それを断行する勇気がありません。そこで達雄に愛されていることをすっかり夫に打ち明けるのです。もっとも夫を・・・ 芥川竜之介 「或恋愛小説」
・・・仲間と云おうか親分と云おうか、兎に角私が一週間前此処に来てからの知合いである。彼の名はヤコフ・イリイッチと云って、身体の出来が人竝外れて大きい、容貌は謂わばカザン寺院の縁日で売る火難盗賊除けのペテロの画像見た様で、太い眉の下に上睫の一直線に・・・ 有島武郎 「かんかん虫」
・・・そうしてたった一週間前に買って遣った頭に被る新しい巾を引き裂いた。 それからこの犬は人間というものを信用しなくなって、人が呼んで摩ろうとすると、尾を股の間へ挿んで逃げた。時々はまた怒って人間に飛付いて噛もうとしたが、そんな時は大抵杖で撲・・・ 著:アンドレーエフレオニード・ニコラーエヴィチ 訳:森鴎外 「犬」
・・・それも、五年と十年と、このままで居たいたって、こちらに居られます身体じゃなし、もう二週間の上になったって、五日目ぐらいから、やいやい帰れって、言って来て、三度めに来た手紙なんぞの様子じゃ、良人の方の親類が、ああの、こうのって、面倒だから、そ・・・ 泉鏡花 「女客」
・・・それから、一週間、二週間を経ても、友人からは何の音沙汰もなかった。しかし、僕は、どんな難局に立っても、この女を女優に仕立てあげようという熱心が出ていた。 六 僕は井筒屋の風呂を貰っていたが、雨が降ったり、あまり涼しか・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・そこで島田が或る本屋を口説いたところが、数学の本を書いてくれるなら金を出そうというので、それから島田がドコからか原書を借出して来て、二人して一週間ばかりで書上げたのがアノ本サ。早速金に換えて懐ろが温まったので、サア繰出せと二人して大豪遊を極・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・それで友人に話したところが、友人も実にドウすることもできないで一週間黙っておった。何といってよいかわからぬ。ドウモ仕方がないから、そのことをカーライルにいった。そのときにカーライルは十日ばかりぼんやりとして何もしなかったということであります・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・それから色々な秘密らしい口供をしたりまたわざと矛盾する口供をしたりして、予審を二三週間長引かせた。その口供が故意にしたのであったという事は、後になって分かった。 ある夕方女房は檻房の床の上に倒れて死んでいた。それを見附けて、女の押丁が抱・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・二週間もいってきなされば、おまえさんのその体は、生まれ変わったようにじょうぶになることは請け合いです。」「それはほんとうですか?」と、少年は、生まれ変わったようにじょうぶになると聞いて、驚きと喜びとに飛び立つように思いました。「ああ・・・ 小川未明 「石をのせた車」
・・・もっとも、四五年前にも同じ病気に罹ったのであるが、その時は急発であるとともに三週間ばかりで全治したが、今度のはジリジリと来て、長い代りには前ほどに苦しまぬので、下腹や腰の周囲がズキズキ疼くのさえ辛抱すれば、折々熱が出たり寒気がしたりするくら・・・ 小栗風葉 「深川女房」
出典:青空文庫