・・・ 一週間ぐらいは、その噂で持ち切っていた。 セコチャンは、自分をのみ殺した湖の、蒼黒い湖面を見下ろす墓地に、永劫に眠った。白い旗が、ヒラヒラと、彼の生前を思わせる応援旗のようにはためいた。 安岡は、そのことがあってのちますます淋・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・どうかすると、おめえそんなのを一週間に一度ずつこっそりやるのかも知れねえが。」一本腕はこう云って、顔をくしゃくしゃにして笑った。 爺いさんは真面目に相手の顔を見返して、腰を屈めて近寄った。そして囁いた。「おれは盗んだのだ。何百万と云う貨・・・ 著:ブウテフレデリック 訳:森鴎外 「橋の下」
・・・ただこの後の処分がどうであろうという心配が皆を悩まして居る内に一週間停船の命令は下った。再び鼎の沸くが如くに騒ぎ出した。終に記者と士官とが相談して二、三人ずつの総代を出して船長を責める事になった。自分も気が気でないので寐ても居られぬから弥次・・・ 正岡子規 「病」
・・・もう私はその為ならば一週間でも泣けたのです。 すると俄かに私の右の肩が重くなりました。そして何だか暖いのです。びっくりして振りかえって見ましたらあの番人のおじいさんが心配そうに白い眉を寄せて私の肩に手を置いて立っているのです。その番人の・・・ 宮沢賢治 「黄いろのトマト」
・・・ 早りっ気で思い立つと足元から火の燃えだした様にせかせか仕だす癖が有るので始めの一週間ばかりはもうすっかりそれに気を奪われて居た。 土の少なくなったのに手を泥まびれにして畑の土を足したり枯葉をむしったりした。 けれ共今はもうあき・・・ 宮本百合子 「秋毛」
・・・予がこれに費した時間も、前後通算して一週間にだに足るまい。予がもし小説家ならば、天下は小説家の多きに勝えぬであろう。かように一面には当時の所謂文壇が、予に実に副わざる名声を与えて、見当違の幸福を強いたと同時に、一面には予が医学を以て相交わる・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・ちょうど宅はベルリンに二週間ほど滞留しなくてはならない用事がありましたので、わたくしはひとりでその宴会へ参りました。夜なかが過ぎて一時になりましたころ、わたくしは雑談をいたしているのが厭になって来ましたので、わたくしどもを呼んで下すった奥さ・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
・・・十一 一週間の後、小さな藁小屋が掘割の傍に建てられた。そこは秋三の家に属している空地であった。 その日最早や安次は自由に歩くことも出来なくなっていた。彼は勘次の家の小屋から戸板に吊られて新しい小屋まで運ばれた。 勘次・・・ 横光利一 「南北」
・・・いらっしゃれば大概二週間位は遊興をお尽しなさって、その間は、常に寂そりしてる市中が大そう賑になるんです。お帰りのあとはいつも火の消たようですが、この時の事は、村のものの一年中の話の種になって、あの時はドウであった、コウであったのと雑談が、始・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
・・・ 一週間の後にバアルは彼女を舞台の上に見た。いっしょに行ったのはヨゼフ・カインツとかわいらしい女優のロッテ・ウィットであった。この晩の印象はどうしても忘れる事ができないほど強烈である、三人とも夢中になって、熱病やみのように打ち震えた。カ・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫