・・・そのうちに××は大うねりに進路を右へ曲げはじめた。同時にまた海は右舷全体へ凄まじい浪を浴びせかけた。それは勿論あっと言う間に大砲に跨った水兵の姿をさらってしまうのに足るものだった。海の中に落ちた水兵は一生懸命に片手を挙げ、何かおお声に叫んで・・・ 芥川竜之介 「三つの窓」
・・・ 人生の進路も、生活の形態も、一元的に決定することはできないであろう。故に、一つの主義が勃興すれば、それと対蹠的な主義が生起する。かくして、その相剋の間に真理は見出されるのを常とします。しかし、真の殉教者は、そのいずれに於ても、狂信的な・・・ 小川未明 「文化線の低下」
・・・てを出し切って居ませんよ、という、これはまた、おそろしく陳腐の言葉、けれどもこれは作者の親切、正覚坊の甲羅ほどの氷のかけら、どんぶりこ、どんぶりこ、のどかに海上ながれて来ると、老練の船長すかさずさっと進路をかえて、危い、危い、突き当ったら沈・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・ 論文に譬えると、あの婦人雑誌の「新婦人の進路」なんていう題の、世にもけがらわしく無内容な、それでいて何やら意味ありそうに乙にすましているあの論文みたいなものだということになりそうだ。 どんなに自分が無内容でも、卑劣でも、偽善的でも・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・ つまり各部門においては現在既知の知識の終点を究め、同時に未来の進路に対して適当の指針を与え得るものが先ず理想的の権威と称すべきものではあるまいか。 現在既知の科学的知識を少しの遺漏もなく知悉するという事が実際に言葉通りに可能である・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・、降雨等の空間的時間的分布等についてはなかなか詳しく調べ上げられているのであるが、肝心の颱風の成因についてはまだ何らの定説がないくらいであるから、出来上がった颱風が二十四時間後に強くなるか弱くなるか、進路をどの方向にどれだけ転ずるかというよ・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・ 台風の襲来を未然に予知し、その進路とその勢力の消長とを今よりもより確実に予測するためには、どうしても太平洋上ならびに日本海上に若干の観測地点を必要とし、その上にまた大陸方面からオホツク海方面までも観測網を広げる必要があるように思われる・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・従ってそれから判断してその日の低気圧の進路のおおよその見当をつける事が可能になるのである。 気象に関係のありそうなのでは「たぬきの腹鼓」がある。この現象は現代の東京にもまだあるかもしれないがたぶんは他の二十世紀文化の物音に圧・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・もし我々が小説家から、人間と云うものは、こんなものであると云う新事実を教えられたならば、我々は我々の分化作用の径路において、この小説家のために一歩の発展を促されて、開化の進路にあたる一叢の荊棘を切り開いて貰ったと云わねばならんだろうと思いま・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・人生の風波の間に、自分という可愛い小舟をホンローさせず、人間、女として自身の進路を見出してゆかなければならないと思います。 どうか皆さま、お元気に。よろこびが、あなたの前途にみちているように。苦しみと悲しみがあなたを囲んだとき、涙の・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
出典:青空文庫