・・・ 五、作品の雕琢に熱心なる事。遅筆なるは推敲の屡なるに依るなり。 六、おのれの作品の評価に謙遜なる事。大抵の作品は「ありゃ駄目だよ」と云う。 七、月評に忠実なる事。 八、半可な通人ぶりや利いた風の贅沢をせざる事。 九、容・・・ 芥川竜之介 「彼の長所十八」
・・・語彙が貧弱だから、ペンが渋るのである。遅筆は、作家の恥辱である。一枚書くのに、二、三度は、辞林を調べている。嘘字か、どうか不安なのである。 自作を語れ、と言われると、どうして私は、こんなに怒るのだろう。私は、自分の作品をあまり認めて・・・ 太宰治 「自作を語る」
・・・それでも遅筆の方で、一日平均五枚ぐらいしか書けません。 執筆中、これという気になることもありませんが、ただ風の音は嫌いです。 書斎と原稿用紙 書斎の光線は薄暗いのが好きです。夏なぞ、わざと障子を閉め切ります・・・ 宮本百合子 「身辺打明けの記」
・・・田中王堂氏の原稿は、書き入れ、書きなおしで御本人さえ一寸困るようだとか、多分藤村氏であった、有名な遅筆だが、おくれて困るので出先まで追っかけて、庭越しに向い合わせの座敷をとって待つことにした。さて藤村氏の方はどんな工合に行っているかと硝子障・・・ 宮本百合子 「狭い一側面」
出典:青空文庫