・・・何でも三浦の話によると、これは彼の細君の従弟だそうで、当時××紡績会社でも歳の割には重用されている、敏腕の社員だと云う事です。成程そう云えば一つ卓子の紅茶を囲んで、多曖もない雑談を交換しながら、巻煙草をふかせている間でさえ、彼が相当な才物だ・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・という語が幾個あるかと数え出した事もあれば、紅葉山人の諸作の中より同一の警句の再三重用せられているものを捜し出した事もあった。唖々子の眼より見て当時の文壇第一の悪文家は国木田独歩であった。 その年雪が降り出した或日の晩方から電車の運転手・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・その他正直者の重用を説き、理非を絶対に曲げてはならないこと、断乎たる処分も結局は慈悲の殺生であることなどを力説しているのも、目につく点である。我々はそこに、精神の自由さと道義的背景の硬さとを感じ得るように思う。 やや時代の下るもののうち・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫