・・・あの毒は大変です、その卵のくッついた野菜を食べると、血を吐いて即死だそうだ。 現に、私がね、ただ、触られてかぶれたばかりだが。 北国の秋の祭――十月です。半ば頃、その祭に呼ばれて親類へ行った。 白山宮の境内、大きな手水鉢のわきで・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ 姑が一人、小姑が、出戻と二人、女です――夫に事うる道も、第一、家風だ、と言って、水も私が、郊外の住居ですから、釣瓶から汲まされます。野菜も切ります。……夜はお姑のおともをして、風呂敷でお惣菜の買ものにも出ますんです。――それを厭うもの・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・ 戸々に立ち働いている黒い影は地獄の兵卒のごとく、――戸々の店さきに一様に黒く並んでるかな物、荒物、野菜などは鬼の持ち物、喰い物のごとく、――僕はいつの間に墓場、黄泉の台どころを嗅ぎ当てていたのかと不思議に思った。 たまたま、鼻唄を・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・「野菜料理は日本が世界一である。欧羅巴の野菜料理てのは鶯のスリ餌のようなものばかりだから、「ヴェジテラニヤン・クラブ」へ出入する奴は皆青瓢箪のような面をしている。が、日本では菜食党の坊主は皆血色のイイ健康な面をしている。日本の野菜料理が衛養・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・今や小麦なり、砂糖大根なり、北欧産の穀類または野菜にして、成熟せざるものなきにいたりました。ユトランドは大樅の林の繁茂のゆえをもって良き田園と化しました。木材を与えられし上に善き気候を与えられました、植ゆべきはまことに樹であります。 し・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・ 丹精して、野菜を作っていられたお祖父さんは、「おどろいたなあ。」と、おっしゃったけれど、木は、そんなことに関係なく、ぐんぐんと大きくなりました。そして、三年目からは、ほんとうに、実がたくさんなりました。 吉雄くんの植えたいちじ・・・ 小川未明 「いちじゅくの木」
・・・もう米や、野菜がなくなった時分だのに、帰らないものだから、病気でもしているのではないかと、心配しながらやってきた。」と、おじいさんはいいました。 息子は、たいそう喜びまして、「私は、明日あたり、村へ帰ってこようと思っていましたのです・・・ 小川未明 「おおかみをだましたおじいさん」
・・・山本屋の門には火屋なしのカンテラを点して、三十五六の棒手振らしい男が、荷籠を下ろして、売れ残りの野菜物に水を与れていた。私は泊り客かと思ったら、後でこの家の亭主と知れた。「泊めてもらいたいんですが……」と私は門口から言った。 すると・・・ 小栗風葉 「世間師」
・・・ 私は木綿の厚司に白い紐の前掛をつけさせられ、朝はお粥に香の物、昼はばんざいといって野菜の煮たものか蒟蒻の水臭いすまし汁、夜はまた香のものにお茶漬だった。給金はなくて、小遣いは一年に五十銭、一月五銭足らずでした。古参の丁稚でもそれと大差・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・走りの野菜をやりましたら大変喜びましたが、これも二日とは続けられません。それで今度はお前から注文しなさいと言えば、西瓜の奈良漬だとか、酢ぐきだとか、不消化なものばかり好んで、六ヶしうお粥をたべさせて貰いましたが、遂に自分から「これは無理です・・・ 梶井久 「臨終まで」
出典:青空文庫