・・・マリヤは静に金儲けのことや物質上の報酬のことを考えた揚句、こう云いました。「私たちの発見に商業的な未来があるとしてもそれは一つの偶然で、それを私たちが利用するという法はありません。」ラジウムが病人を治す役に立つからと云って、そこから儲けるこ・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・ 今日の社会では、職業的ということと金儲けが眼目ということはほとんど同義語に印象される習慣です。生存競争が全く個人主義的に行われているから、職業的というとき、ひとよりちょっとでも分をよく立ちまわるということがすぐピンと来るような憐れむべ・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・アメリカやアイルランドの小劇場は興業資本にたいして、金儲け専一でないほんとうの劇場、ほんとうの演劇をもちたいという希望をもつ人々によって創られたものでした。出版事業にひきずられっぱなしでない出版をして、たとえば、ヴァージニア・ウルフ夫妻が中・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・両親は却ってこの熱烈で大柄な若者の野心の余りひどい挫折を劬り、小説で成功するためには、金儲けをすると同じに、やはり時間のいることをおのずから会得したものか、健康恢復をさせるため、バルザックを当時隠退して住んでいたヴィルパリジェスの家へ引きと・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・少しは小ぎれいな十五坪住宅が、金儲けの上手だった人々によって建てられているぎりである。大風でとびそうな小家がやっと道ばたに並んだ程度で、近代都市が復興したとはいえない。そこには辛うじて雨露をしのぐ手だてが出来たというばかりである。 歴史・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・働く人の労働力が、その人々を傭っている人、つまり企業家を富ます目的でだけ利用されている社会では働く人の文化の要求は文化的な面で、金儲けをする企業家の餌食となってゆくばかりです。そんな社会では、働く人の本当の人間らしい喜びや苦痛や希望をいろい・・・ 宮本百合子 「若人の要求」
・・・あの職人さんほどいいお金儲けをする人はないっていうし。」 そう口を入れたのはませた姉である。「そうだ、それも好いな。」 と父親は言った。 母親だけはいつまでも黙っていた。 吉は流しの暗い棚の上に光っている硝子の酒瓶が眼に・・・ 横光利一 「笑われた子」
出典:青空文庫