・・・が、仏法僧のなく音覚束なし、誰に助けらるるともなく、生命生きて、浮世のうらを、古河銅山の書記になって、二年ばかり、子まで出来たが、気の毒にも、山小屋、飯場のパパは、煩ってなくなった。 お妻は石炭屑で黒くなり、枝炭のごとく、煤けた姑獲鳥の・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・八月、足尾銅山に遊び、処女作「穴」を書く。この作品は川村花菱氏を通じ伊原青々園の『歌舞伎』にのせられた。 一九一一年。名古屋の或る素人劇団によって「穴」が上演された。その頃学校を休んでは、大入場に入ってよく芝居を見る。以前にはかなり勤勉・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・ 伊予国の銅山は諸国の悪者の集まる所だと聞いて、一行は銅山を二日捜した。それから西条に二日、小春、今治に二日いて、松山から道後の温泉に出た。ここへ来るまでに、暑を侵して旅行をした宇平は留飲疝通に悩み、文吉も下痢して、食事が進まぬので、湯・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫