・・・私なぞの考えで見ると、何も家をお持ちなさるからって、暮に遣う煤掃きの煤取りから、正月飾る鏡餅のお三方まで一度に買い調えなきゃならないというものじゃなし、お竈を据えて、長火鉢を置いて、一軒のお住居をなさるにむつかしいことも何もないと思いますが・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・そら、この鏡餅がいいだろう。」 四郎とかん子はそこで小さな雪沓をはいてお餅をかついで外に出ました。 兄弟の一郎二郎三郎は戸口に並んで立って、「行っておいで。大人の狐にあったら急いで目をつぶるんだよ。そら僕ら囃してやろうか。堅雪か・・・ 宮沢賢治 「雪渡り」
・・・「小祝の一家」「鏡餅」「乳房」「突堤」である。「小祝の一家」「鏡餅」「乳房」どれも今から十四五年前、日本で民主的な文化運動さえも権力によって暴圧されていた時代、人間らしい正当な活動はひそかに組織され、多くの犠牲をもって実行されていた頃の出来・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第四巻)」
・・・「鏡餅」は去年の大晦日の或る女の感情を描いたもので、二十何枚か二晩にかいてしまった。そのような熱と、又そのような欠点をもっていたものです。それを書きあげて、『新潮』へ送ってほとんど間もなく、すっかり仕事が中断されたわけです。府中へは私もひど・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・小説「鏡餅」八月。鈍根録十月。ツルゲーネフの生きかた。十一月。夫婦が作家である場合。十二月。バルザックに対する評価。一九三五年〔前年十一〕月。淀橋区上落合の家に引越した。〔同十二月初〕旬、夕刊で宮本が市ヶ・・・ 宮本百合子 「年譜」
出典:青空文庫