・・・ 女を待ちうけている仁右衛門にとっては、この邪魔者の長居しているのがいまいましいので、言葉も仕打ちも段々荒らかになった。 執着の強い笠井も立なければならなくなった。その場を取りつくろう世辞をいって怒った風も見せずに坂を下りて行った。・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・民子が少し長居をすると、もう気が咎めて心配でならなくなった。「民さん、またお出よ、余り長く居ると人がつまらぬことを云うから」 民子も心持は同じだけれど、僕にもう行けと云われると妙にすねだす。「あレあなたは先日何と云いました。人が・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・そんな処に長居するもんじゃないよ。気持を悪くするばかしで、結局君の不利益じゃないか。そりゃ先方の云う通り、今日中に引払ったらいゝだろうね」「出来れば無論今日中に越すつもりだがね、何しろこれから家を捜さにゃならんのだからね」「併しそん・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・然るに座に校長細川あり、酒が出ていて老先生の気焔頗る凄まじかったので長居を為ずに帰って了った。 その後五日経って、村長は午後二時頃富岡老人を訪う積りでその門まで来た。そうすると先生の声で「馬鹿者! 貴様まで大馬鹿になったか? 何が可・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・いつの間にか船首をめぐらせる端艇小さくなりて人の顔も分き難くなれば甲板に長居は船暈の元と窮屈なる船室に這い込み用意の葡萄酒一杯に喉を沾して革鞄枕に横になれば甲板にまたもや汽笛の音。船は早や港を出るよと思えど窓外を覗く元気もなし。『新小説』取・・・ 寺田寅彦 「東上記」
出典:青空文庫