・・・は、その後にかかれた長篇「伸子」の短く途絶えた序曲のような性質をもっている。あるいは、嵐がおそって来る前の稲妻の閃きのような。「白い蚊帳」は時期から云えば「我に叛く」より数年あとになるが、これも或る意味では「伸子」に添えてよまれるべき性質の・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第三巻)」
・・・いま毎日新聞に連載されているチャーチルの回想録をよんでもそれははっきりわかるし、最近並河亮氏が訳したアプトン・シンクレアの大長篇の一部「勝利の世界」をよんでもまざまざと描きだされている。主人公ラニー・バットは、フランスがヴィシーに政府をうつ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
この一冊におさめられた八篇の小説は、それぞれに書かれた時期もちがい、それぞれにちがった時期の歴史をももっている。「一本の花」は一九二七年の秋ごろ発表された。長篇「伸子」を書き終り、ソヴェト旅行に出かける前の中間の時期、・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第四巻)」
・・・が一巻の長篇小説として経て来ためぐりあわせにはなかなか意味ふかいものがある。「伸子」が完成して、出版準備も終った一九二七年の日本で、「伸子」は一つの文学的現象にしかすぎず、或る程度まで評価された一つの文学的業績にとどまった。そして、そのよう・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・何故なら、率直に言ってこれは菊判六百頁に近い程長く書かせる種類の題材でなく感じられたし、長篇小説として見ればどちらかと言えば成功し難い作品であるから。しかも、作者は一種の熱中をもって主人公葉子の感情のあらゆる波を追究しようとしていて、時には・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
好きな物語の好きな女主人公は一人ならずあるが、今興味をもっているのは、ロマン・ローランの長篇小説 The Soul Enchantedの女主人公アンネットです。この小説はジャン・クリストフのように、アンネットという女性の一・・・ 宮本百合子 「アンネット」
ロジェ・マルタン・デュガールの長篇小説「チボー家の人々」は太平洋戦争がはじまる前に、その第七巻までが訳された。山内義雄氏の翻訳で、どっさりの人に愛読されていたものであったが、ドイツのナチズムとイタリーのファシズムの真似一点・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・小説においては、済勝の足ならしに短篇数十を作り試みたが、長篇の山口にたどりついて挫折した。戯曲においては、同じ足ならしの一幕物若干が成ったのみで、三幕以上の作はいたずらに見放くる山たるにとどまった。哲学においては医者であったために自然科学の・・・ 森鴎外 「なかじきり」
・・・「ふむ。」梶はまことに意外であった。「長篇なんですよ。数学の教授たちは面白い面白いと云ってくれましたが、僕はこれから、数学を小説のようにして書いてみたいんです。あなたの書かれた旅愁というの、四度読みましたが、あそこに出て来る数学のこ・・・ 横光利一 「微笑」
・・・特に藤村が全力を集注して書いた数篇の長篇は、くり返して読むに価する滋味に富んだものである。またくり返して読ませるだけの力を持った作品である。 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫