・・・すなわち情緒表現の道と並行して、純粋に写実に努力し、これまで閑却していたさまざまの自然の美を捕えるのである。宋画のある者に見られるような根強い写実は、決して情趣表現の動機から出たものではない。氏を浪漫的な弱さから連れ出すものは、おそらくこれ・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・私利を先にして、天下万民に各々そのこころざしを遂げしむる努力を閑却するごときものは、大詔に違背せる非国民である。しかもこの徒が政治を行なうとすれば、「君側に奸あり」と言わざるを得ぬ。こういうのが父の考えであった。だから原敬を暗殺した中岡良一・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・また中年以後に起こる精神的革命なども、多くはこの時期に萌え出て、そうして閑却されていた芽の、突然な急激な成長によるということです。それほどこの時期の精神生活は、漠然とはしていても、内容が豊富なのです。 しかし危険はこれらの一切が雑然とし・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
・・・ 寺田さんはそういう現象のうちにも常に閑却された重大な問題を見出していった。が更にいっそう具体的な日常の現実は人間の現象である。ここでも寺田さんは人々があたり前として看過している現象の中に数々の不思議を見出し熱心にそれを探究している。・・・ 和辻哲郎 「寺田寅彦」
・・・根の枯れるのを閑却して、ただ花のみ咲かせようとあせる人ほど、ばかげた哀れなものはないだろう。 しかしその哀れな人々が、大きい顔をして、さも生きがいありそうに働いている。七お前の生を最もよく生きるために、お前の苦し・・・ 和辻哲郎 「ベエトォフェンの面」
出典:青空文庫