・・・ 憂きわれをさびしがらせよ閑古鳥「日本浪曼派」十一月号所載、北村謙次郎の創作、「終日。」絶対の沈黙。うごかぬ庭石。あかあかと日はつれなくも秋の風。あは、ひとり行く。以上の私の言葉にからまる、或る一すじの想念に心うごか・・・ 太宰治 「碧眼托鉢」
・・・花を蹈みし草履も見えて朝寐かな妹が垣根三味線草の花咲きぬ卯月八日死んで生るゝ子は仏閑古鳥かいさゝか白き鳥飛びぬ虫のためにそこなはれ落つ柿の花恋さま/″\願の糸も白きより月天心貧しき町を通りけり羽蟻飛ぶや富・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ カッコー……カッコー…… しとやかな含み声の閑古鳥の声が、どこからか聞える。 常春藤が木の梢からのび上って見上げようとし、ところどころに咲く白百合は、キラキラ輝きながら手招きをする。 六はもう、得意と嬉しさで有頂天になって・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫