・・・これは実際存在することであり、資本家は、それらの裏切者を手なずけるために、間接、直接に、あらゆる手段を弄するのである。 彼等に買収された労働者は、もう吾々の味方ではない。それは、ブルジョアジーの手先である。その物の考え方は、もうプロレタ・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・これを得る喜悦、これを得る高慢のために高慢税を納めることを敢てしたのである、その高慢税の額は間接に皆利休の査定するところであったのである。自身はそんな卑役を取るつもりはなかったろうが、自然の勢で自分も知らぬ間に何時かそういう役廻りをさせられ・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・ 鰯が鯨の餌食となり、雀が鷹の餌食となり、羊が狼の餌食となる動物の世界から進化して、まだ幾万年しかへていない人間社会にあって、つねに弱肉強食の修羅場を演じ、多数の弱者が直接・間接に生存競争の犠牲となるのは、目下のところやむをえぬ現象で、・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 鰯が鯨の餌食となり、雀が鷹の餌食となり、羊が狼の餌食となる動物の世界から進化して、尚だ幾万年しか経ない人間社会に在って、常に弱肉強食の修羅場を演じ、多数の弱者が直接・間接に生存競争の犠牲となるのは、目下の所は已むを得ぬ現象で、天寿を全・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・これだけの著しい現象の直接間接の効果が日本国民全体の心理と仕事上になんらかの形で現われて来ない訳にはいかないに相違ない。その結果の善悪にかかわらず実に恐るべきことだと思われるのであった。 新宿辺で灯がつき始めたが、駒込へ帰るまで空は明る・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・してみると、この歌のリズムがなんらかの関係で、直接か間接か鴉の運動神経に作用しているらしく思われた。 しかし、これだけでは鴉が音の拍節を聴き分けるという証拠には勿論ならない。第一、この映画を撮影している人々が画面の此方に大勢いるはずであ・・・ 寺田寅彦 「鴉と唱歌」
・・・ 動物の場合にはこれらの球技は直接間接に食うための労役である。人間の場合においては、球技を職業とする人は格別、普通にはとにかく不生産的の遊戯であり、日常生活の営みからの臨時転向である。こう思ってしまえば誠に簡単であるが、自分にはどうもそ・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・そうして自分の方を見ながら、どうも咽喉がかわいてと間接な弁解をした。「だいぶ飲んだんだね」「ええお祭りで、少し飲まされました」 赤い顔のことは簡単にこれで済んでしまった。それからどこをどう話が通ったか覚えていないが、三十分ばかり・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・それが乱れ、雑り、重なって苔の上を照らすから、林の中に居るものは琥珀の屏を繞らして間接に太陽の光りを浴びる心地である。ウィリアムは醒めて苦しく、夢に落付くという容子に見える。糸の音が再び落ちつきかけた耳朶に響く。今度は怪しき音の方へ眼をむけ・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・今までは女二人だと思ってずいぶん勝手な事ばかりしたのですが、今じゃ男がついているからそうばかり踏みつけられちゃいませんのさ、と間接に亭主の自慢を仰せられた。それから御待遠様それでは出かけましょうと云うから出かけた。我輩は手提革鞄の中へ雑物を・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
出典:青空文庫