・・・雑誌のモードは、山に海にと、闊達自由な服装の色どりをしめし、野外の風にふかれる肌の手入れを指導しているけれども、サンマー・タイムの四時から五時、ジープのかけすぎる交叉点を、信号につれて雑色の河のように家路に向って流れる無数の老若男女勤め人た・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・ 今日作家が一般的に、こういう面でのみ闊達であり得るということについては、慶賀すべきか、或は憤ってしかるべきことなのであろうか。 大森義太郎氏の「思想と生活」には、「麦死なず」に対する批判的感想として、正しい思想はよしんば各個人の実・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・彼女たちは、自分の豊かなるべき青春と、若々しく闊達なるべき人間性が、あらゆる面でどんなに痛めつけられ、無視され、破壊されて来たかということを、めいめいの皮膚で知っている。そのような非道な力の下でしかも猶よく生きようと念願しつづけて来た自分た・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・私はやっと生活の上で闊達であるばかりでなく文学の上でも闊達ならんとしているらしいから一層慎重に勉強をすすめるつもりです。 あなたに叔父様は目のことを注意なすった様子ですが、呉々も読みすぎぬよう願います。それから風呂へ入るとき、風呂桶のフ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 白いさっぱりしたシャツの胸を闊達にひろげて着たちぢれ毛のコムソモールは、ちょっと顔を赧らめ、 ――いや。と云った。 ――何にもないんです。 ――ポケットの中を見せ給え。 どっと笑う。 ――さあ、どうしたんだ? ・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・若い脚がのびたいだけ伸ばされ、しなやかな背中が向きたいだけ大きく向きかわって闊達に動作しているのではなくて、台だの、持場だの、狭苦しい区画の間で気の毒なほど青春の肉体の動きを制約されている。足と手とを神経とともに細かくつかって、それで飽き飽・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・このような些細なことに現れる不自由は、作家としての彼に闊達な振舞を内面的にも外部的にも拘束しがちであったろう。ドイツではゲーテが宰相であれ程の文学者であったというような例は、事情の違う日本では現在までの歴史の性質に於ては有り得ないのが自然と・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・高邁にして自由な精神とは「自分の感情と思想とを独立させて冷然と眺めることの出来る闊達自在な精神」であるとして横光氏によって提出されたのである。青野季吉氏は「紋章」にすっかり「圧迫され」横光氏の「自由の精華」に讚辞を惜しまれなかったのであるが・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・いずれも緑、黄、朱、赤、と原色に近い強烈な色調で、桃山時代模様と称される華美、闊達な大模様が染められている。この着物をきて、さらにどんな帯をしめるのであろうかと思わずにいられない華やかさ強烈さである。ひところ、一反百円という女物の衣類は、ご・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・のようにおそろしい女から、リア王の三人娘のような諸性格、ロミオとの悲しい愛に命をおとしたジュリエットのような姫から、「ウインザアの陽気な女房たち」「奸婦ならし」の闊達おてんばな女、ハムレットの不幸な愛人としてのオフェリアなど、千変万化の女性・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
出典:青空文庫